2015年8月28日金曜日

「中国製造2025」(4):中国企業のイノベーション志向を探る、文化の違いは、イノベーションにどのような影響を及ぼすのか

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ニューズウイーク 2015年8月26日(水)16時30分
ヤン・シアオトン ※Dialogue Jun/Aug 2015より転載
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/08/post-3861.php

中国企業のイノベーション志向を探る
 国や企業の「文化」はイノベーションにどう影響するか、
 また外国企業が中国で気を付けるべきこととは

 アイデアの創出から商業化へと至るイノベーションのプロセスにおいて、「文化」は重要な役割を果たす。

 「文化の違いは、イノベーションにどのような影響を及ぼすのか」。
 この問いに答えるために、私たちは、国単位のイノベーション力と文化的特性を反映したデータを集めることにした。
 国民文化・組織文化研究の第一人者、ヘールト・ホフステードは、2010年の共著書『Cultures and Organizations』(邦訳『多文化世界――違いを学び未来への道を探る』有斐閣)において、
 次の五つのディメンションで文化を分析している。

1].権力の格差指標(PDI):
 権力の弱い者たちが、社会の不平等をどれだけ受け入れているか。
.個人主義か集団主義か(IDV):
 どれくらい個人が集団を意識しているか。
.性別役割意識(MAS):
 男女による違いをどれだけ意識しているか。
.不確実性の回避指標(UAI):
 不確実、あるいは未知の状況をどの程度脅威に感じるか。
.長期志向(LTO):
 将来を見越した長期的視野をもっているかどうか。
 「放縦か抑制か(IVR)」すなわち個々人がどれくらい自らの欲望や衝動をコントロールしようとしているかも、このディメンションに含まれる。

 2009年と2010年にINSEAD(フランスとシンガポールに拠点を置くビジネススクール)とインド産業連盟が作成した「グローバルイノベーション指標(GII)」報告では、132カ国のイノベーション力のスコアと順位が発表されている。
 これに基づき、各国の文化的特性とイノベーション力の関係の回帰モデルを調べてみた。
 ちなみにPDIとIDVにはきわめて強い逆相関関係があるため、IDVは回帰式から除外した。

 回帰式は次のようになる。

★・国のイノベーション力(GII)
 =3.921+(-0.018×PDI)+(0.016×LTO)+(-0.007×UAI)+(0.009×IVR)

 この式は、INSEADとインド産業連盟の調査から見出された以下の事実を根拠としている。

●・MAS(性別役割意識)は、イノベーションに影響を及ぼさない。
●・PDI(権力の格差指標)が高いとイノベーションに好ましくない。

●・LTO(長期志向)が高いとイノベーションに好ましい。

●・不確実性を回避する傾向が強い文化ほどイノベーション力は低い。
●・欲望と衝動は、より大きなイノベーションに結びつく場合がある。

■レノボやシノペックなど中国企業30社を調査

 こうした国単位の文化的特性とイノベーションの関係は、個別の企業にも当てはまるのだろうか。
 それを調べるために中国企業30社を調査した。
 調査対象には、シノペック(中国石油化工集団公司)やCIIC(中国国際技術智力合作公司)などの国有企業と、中国民生銀行やレノボなどの非国有企業が含まれる。

 調査では、それぞれの企業の文化について、
 「透明でフラット」
 「多様化している」
 「寛大」
 「前向き」
 「オープンで偏見がない」
 「リスクをとる」
 「集団的」
 「強力なヒエラルキーがある」
といった各項目にどのくらい当てはまるか、自らスコアをつけてもらった。
 「寛大」は失敗を許容する文化があるかどうかを示す。
 「集団的」は、中国企業では一般的である集団指導体制がイノベーションに有利かどうかを評価するための項目。
 「強力なヒエラルキーがある」は、あるかどうかではなく(現実的には全調査対象企業にある)、企業がそれをイノベーションに好ましいと考えているかどうか知るために評価項目
に含めた。

 スコアは1点刻み10点満点とした。
 6点以上ならば、その文化的特性が自社のイノベーションにとって好ましいと回答者が考えていると推測できる。

*].調査結果によれば、もっとも好ましいと企業が考える文化的特性
★.「寛大」
★.「透明でフラット」
2つだった。

 「寛大」は中国文化の伝統にマッチする。
 年長者は年少者の面倒をみるものとされ、年長者は年少者の少々の失敗なら許容する。

*].もっとも好ましくないと彼らが考える文化的特性は、
★.「リスクをとる」
★.「強力なヒエラルキーがある」
だった。

★.調査対象の中国企業では、リスクをとって変化することは奨励されていない
ようだ。
 ただし、彼らは階層的な権力分布が革新的なアイデアの孵化を妨げることは理解している。

 ここでの調査結果は、国単位のデータと概ね合致していた。
 寛大であることはLTO(長期志向)の表われであり、
 リスクを冒すことはUAI(不確実性の回避指標)
と関連する。
 さらに、
 ヒエラルキーが強いということは「PDI(権力の格差指標)が高い」ということだ。

 国有企業と非国有企業の違いも際立っている。
 国有企業は 「集団的」と「強力なヒエラルキーがある」
において非国有企業より高いスコアをつけていた。
 「集団的」のスコアは、非国有企業より国有企業が平均して25%高い。
 一方、「前向き」と「オープンで偏見がない」に対して非国有企業は国有企業より24%高いスコアをつけた。
 「多様化している」については、非国有企業は国有企業より30%高いスコアをつけている。

 「強力なヒエラルキーがある」ことと、「透明でない」ということには相関があると考えられる。
 そこで、「強力なヒエラルキーがある」のスコアと、満点である10点から「透明でフラット」のスコアを引いた数字(「透明でない」のスコアにあたる)の平均値をとる。
 これは、権力格差が大きいことが企業のイノベーションにどう影響するかを測る指標になる。
 計算結果は、国有企業で4.96、非国有企業は3.88だった。
 どちらも5以下なので、中国のどの企業にとっても、権力格差が大きいことはイノベーションの妨げになることがわかる。

■長期志向は中国の伝統的な価値観

 外国企業が中国企業とビジネスをしようとするときには、イノベーションにかかわる文化面の配慮を忘れてはならない。
 中国はイノベーション主導の経済を確立する途上にあるからだ。

 長期志向は中国の伝統的な価値観だ。
 ただし、国有企業の場合、長期的視野で戦略を立てようにも、しばしば国の政策と規制に阻まれることになる。
 国有企業の指導陣は3年単位で交代する(6年までは延長できる)。
 そのため短期的利益に焦点を合わさざるを得ず、先を見越したイノベーションの種をまくことが難しい。

 いずれにせよ中国企業には、長期的視野で接近するべきだ。
 そうすれば、相互協力のしっかりとした土台を築くことができるだろう。
 民間企業ならなおさらだ。
 国有企業の場合は、短期的な達成目標を長期目標にシームレスに適合させるようにすればよい。

 また外国企業は、中国企業では総じて権力格差が大きいことを十分に認識し、相手企業の権力分布を理解しなければならない。
 いちばんよいのは、中国企業の自分と同じくらいの立場の人と密接に関わり、その人の紹介で組織のはしごを登っていくことだ。
 地位が対等かどうかは、中国の企業文化では重要な概念であり、中国では個人的関係をとても大切にするからだ。

[執筆者]
ヤン・シアオトン
イノベーションを専門とする独立系研究者であり、デューク・コーポレート・エデュケーション(中国)顧問。雲南省昆明市盤龍区で議員に相当する役職にも就いている。



ロイター  2015年 08月 31日 14:18 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/08/31/china-economy-companies-idJPKCN0R00CU20150831?sp=true

焦点:中国製造業、「頭痛の種」は株安よりも価格下落

[寧波(中国) 28日 ロイター] -
 中国株の急落が世界中の投資家を動揺させたが、中国メーカーの経営者にとってみれば、4年近く続く製品価格下落とそれに伴う利益率の縮小の方が真の悩みの種だ。

 株価の乱高下が大きな話題になっているのはこの1年ばかりにすぎない。
★.しかし中国の製造業は3年余りにわたって停滞局面を抜け出せなくなっている。
 あまたの中小企業が必死の競争を繰り広げている結果、生産者物価指数(PPI)が下がり続けていることが背景にある。
 7月のPPIは2009年終盤以来の低水準になった。

 寧波郊外で自動車向けのゴム部品製造工場を所有するイウ・ジョンミン氏は「業況も景気も良くないので、事業を拡大するつもりはない」と話した。
 人民銀行(中央銀行)が一連の利下げに動いているものの、PPIの下落は製造業の実質的な借り入れコスト増大を意味する。
 また利益率縮小によって経済成長につながる新規投資も手控えられている。

 イオ氏の工場は中国の実体経済の根幹となっている他の多くの中堅企業と同じく、国内競争激化や生産要素にかかる費用の増加、輸出の落ち込みといった、いずれも利益率縮小につながる問題に痛めつけられつつある。 
 人民銀行は経済のテコ入れと株価の下支えを狙って予想外の人民元切り下げと積極的な金融緩和に動いたものの、イオ氏の工場のような民間企業の大半にとっては効果は乏しい。
 こうした企業は何十年もの間、伝統的な金融市場を利用していないからだ。

 ロイターが取材したイオ氏やその他の企業は、経営破綻に陥っているわけではなく、国有企業のような多額の債務を抱えてもいない。
 それでも競争の強まりで価格決定力をじりじりと奪われ、コモディティ安や通貨安で得られたかもしれない利益を、そのまま顧客に還元せざるを得ないのが実情だ。
 イオ氏は「ゴムの価格は下がっているとはいえ、製品受注も減っているのでプラスにはならない」と語り、今年これまでの工場の売上高が前年比20%減少したために販売価格を10%引き下げたと説明した。

■<行き過ぎた競争>

 中国経済に関する批判は、大手国有企業の市場独占状態が守られている点に集まっている。
 そこでは確かに競争が損なわれて経営効率改善を阻害しているように見える。
 ところが中小民間企業が直面している厄介な問題は、
 競争があまりに薄弱なのではなく、逆に過当であることだ。

 上海郊外の産業用ロボットメーカーのWecan Groupのリチャード・ゴン最高経営責任者(CEO)は
 「中国にはなかなか治らない病気がある。
 業界内の競争が激し過ぎることで、合理性を欠いている」
と述べた。
 中国以外では産業用ロボットの分野は、ほぼ4大ブランドが支配している。
 これに対してゴン氏によると、中国では競争相手は1000社以上とみられ、その多くは全国的な工場自動化推進の取り組みを背景に地方政府の支援を受けた新興企業だという。
 そして多くの業界関係者が警告したように、雨後の竹の子のごとく誕生した小さなロボットメーカーはこれまでのところ値下げ競争を展開しながらも、製造コストを引き下げられるほどの生産規模を実現、あるいは将来の販売価格引き上げに必要な品質向上のどちらも達成できていない。

 こうした問題はロボット業界に限った話ではない。

 ガベカル・ドラゴノミクスのエコノミスト、アンドルー・バストン氏は
 「中国における多くのセクターでは、事業集中度は非常に低い。
 太陽光やロボットなど有望業種に指定された産業が出てくると、地方政府が地元の有力企業を後援し、過剰供給状態が出現する」
と分析する。

 エコノミストによると、国有企業の再編が進まないことと経済成長のけん引役を地方政府が務めている現実が、企業乱立と過剰供給をもたらす大きな要因だという。
 だからこそもっと合理的な産業政策を打ち出さないと、せっかくの利下げも本来の効果が発揮されなくなりそうだ。
 広東奥林磁電実業の幹部は
 「政府が最近講じたさまざまな政策措置は、理論的には景気の支えになる。
 (ただし)現実的にはわれわれの役に立たない」
と話した。

(Sue-Lin Wong、Pete Sweeney記者)





中国の盛流と陰り



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