2015年8月19日水曜日

中国経済の行方(8):歴史に学ぶなら、市場の深い信仰が裏切られた時には悪い事態が起こる

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●主な国・地域の対中輸出額の推移


2015.8.17(月) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44545

社説:中国、通貨改革への信頼獲得に腐心
当局は競争的切り下げを追求していないことを証明せよ
(2015年8月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 中国人民銀行が人民元を下落させて世界を驚かせてから2日経っても、投資家と政策立案者はまだ、これは市場主導の為替レートに向けた好ましい動きなのか、それとも競争的な通貨切り下げなのかと頭を悩ませていた。

 特に、過去数カ月でドルが新興国全般の通貨に対して急上昇したことから、ワシントンでは、各地に広がる通貨戦争で米国が敗者になりつつあると懸念する向きもある。

 だが、不安定化を招く為替変動に対する懸念は妥当だが、ゼロサムの戦いへの不安は行き過ぎのように見える。
 柔軟な為替レートは世界的な景気調整の重要な一部であり、人民元が現在、下落圧力にさらされていることは理にかなっている。

 ただし、貿易相手国がこれを受け入れるためには、中国は今回の動きが変動相場制へ向かう正真正銘かつ恒久的な動きであって、短期的な輸出促進を実現するための意図的な通貨安ではないことを証明するために懸命に努力しなければならない。

■現段階では人民元安を正当化できるが・・・

 現段階で人民元安を正当化する根拠は強い。
 ドルに連れてその他多くの通貨に対して上昇することで、中国は自国経済が著しく弱くなった時に競争力を失った。
 資本流出も為替レートに下落圧力をかけ、元安を防ぐために介入が必要になった。

 確かに、元安は、輸出志向の成長モデルをより内需に基づくモデルへ移行させるという中国の公式目標に逆行している。
 しかし、ただ内的リバランス(再調整)を促すためだけに明らかに過大評価された人民元を支えることによって景気減速を悪化させることを中国政府に期待するわけにはいかないだろう。

 金融政策を緩和し、通貨安をもたらしていることについて米国が新興国に向けて発する「通貨戦争」の叫び声は、これら新興国が米連邦準備理事会(FRB)の量的緩和プログラムの最中に米国に対して同じことをした時と同程度の正当性しか持たない。

 変動為替相場制の下では、世界の金融政策はゼロサムゲームではない。
 米国はドル高に対応する独自の力を持っている。
 為替レートを直接管理しようとするのではなく、FRBが何もなかった場合よりも低い金利水準を維持するのだ。

 実際、投資家は8月第3週に、人民銀行の動きに応じて、米国が9月に利上げするとの予想を後退させた。
 これはかなり合理的だ。
 FRBはドルをターゲットにしようとする立場に身を置くわけにはいかないが、もちろん、世界のもう1つの巨大経済国で起きている出来事を考慮しなければならないからだ。

 だが、中国は今回は通貨戦争に参入したわけではないかもしれないが、過去の行動のせいで、そうした批判を受けやすい。

 通貨をドルにペッグ(固定)し、これほど長期にわたって通貨の動きを厳格に統制することで、中国は重商主義的な目的のために為替レートを操作しているという広く行き渡った見方を誘ってしまった。

■疑念を払拭せよ

 8月第3週の行動が変動通貨に向けた本物の一歩だとすれば、結構なことだ。
 だが、これほど都合のいいタイミングで中国に短期的に通貨安をもたらしたことを考えると、必然的に疑念を招くだろう。

 中国の中央銀行による直近の行動は、即座に不公平だとの批判を呼んだり、報復措置を引き起こしたりすべきではない。
 中国が真の変動通貨への動きを継続すればするほど、そうした批判は弱くなる。
 また、今回の変化がもたらす1つの良い結果は、中銀が将来、通貨に影響を与えるために介入している時には、それがより明白になることだ。

 人民銀行は、唐突かつ日和見的だったとはいえ、正しい方向に動いた。
 短期的な実利主義ではなく、根本的な原理原則から、そうし続けるべきだ。

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ロイター 2015年 08月 18日 13:56 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/08/18/column-breakingviews-yuan-idJPKCN0QN0C520150818

コラム:人民元切り下げ、「裏切られた信仰」の代償
Edward Chancellor

[ロンドン 17日 ロイター BREAKINGVIEWS] -
 金融市場は宗教と同様、信頼に根差したネットワークである。
 市場を構成する資産と負債の複雑な構造は、信念という土台によって結び付いている。
 しかし宗教と異なり、金融市場の教義は時として間違いであったことが判明する。

 われわれは先週、そうした瞬間を経験した。
 中国当局が人民元の切り下げに踏み切った瞬間だ。

 中国経済は先進国を上回るペースで成長しているのだから
 人民元は上昇を続けるに決まっている、
というのが長年にわたる市場の総意だった。
 中国当局は人民元をドルにペッグ(連動)させながらも、徐々に上昇するのを許してきた。
 このため中国人民銀行がペッグを緩め、人民元を下落させる決定を下したことは市場を驚かせた。

★. この措置の重要性は、
 貨安競争を再燃させたり、
 世界的デフレに拍車を掛ける
といった点にはない。
 いずれも起こり得ることではあるが。
★.真の脅威は、予想外の切り下げが機能不全の中国金融システムに及ぼしかねない悪影響にある。

 米ドルの超低金利時代は、世界的な人民元買いのキャリートレードを呼び起こした。
 理由は簡単だ。
 中国の銀行の方が米銀より高い預金金利を支払ってくれたし、中国のシャドーバンキング(影の銀行)システムならさらに高い利回りを提供してくれた。
 その上、人民元の上昇によって毎年数%ポイントの利益も期待できた。
 多くの外国人にとって、年10%前後のリターンが見込める中国向け貸し出しは、濡れ手で粟の取引に見えたに違いない。

 中国の借り手が海外融資の利用に傾倒したのは、資金の必要性はもとより欲に駆られてのことだった。
 当然のことながら海外で資金を借りた方が金利は低い上、人民元の上昇により債務残高は圧縮される。こうした事情に加え、与信ブームが続いて中国の金融システムは貸し出し需要に追い付けなくなり、海外の貸し手がその穴を埋めることになった。

 その上、中国の非金融債務は国内総生産(GDP)の250%超に膨らみ、返済の負担が極度に重くなった。
 フィッチ・レーティングスは2年前、
★.中国企業の利払いがGDPの11%に相当し、急速に増加を続けている
と推計した。
 海外からの融資がこの負担を軽減してくれた。

 この結果として中国の海外借り入れは急増した。
 国際決済銀行(BIS)によると、
★.世界の銀行の中国向けドル建て貸し出しは2012年終盤の約1000億ドルから13年半ばには6500億ドルに増えた。
 BISはまた、中国企業が海外子会社を通じて海外での借り入れを増やしていると指摘している。
この種の借り入れは、国の統計では外国直接投資に区分され、誤解を招く。

 貿易金融もまた、外貨借り入れの源泉となった。
 人民元の上昇継続を予想する中国企業は輸出インボイスを偽造することで資本統制を迂回し、中国本土にドルを持ち込むことに成功した。
 この慣行は主に香港の子会社を通じて実施された。
 ここ数年、中国政府の統計に記録される香港向け輸出額は、香港の統計に記録される本土からの輸入額を常に大幅に上回っている。
 1980年代末、日本企業も「財テク」と呼ばれる複雑な金融手続きによって利益を増やした。

 その結果が、中国が現在抱える巨額の対外債務である。
★.中国は依然として純債権国だが、
 モルガン・スタンレー・パートナーシップによるとグロスの
 対外債務は5兆ドル近くに膨らんでいる。
 これは
★.3兆7000億ドルに積み上がった中国の外貨準備をも上回る規模
だ。

 中国はここ数カ月で多額の資本流出に見舞われており、ゴールドマン・サックスの推計では第2・四半期の流出額は2240億ドル程度に達した。
 世界的なキャリートレードが後退するにつれ、外銀の中国向け貸し出しは急減し、BISによると過去1年間で約2500億ドル減っている。
 中国当局が通貨ペッグを維持している限り、このような資本流出が起こると中国人民銀行は外貨準備を売って人民元を買い入れることを余儀なくされる。

  問題は、人民銀行がそうした取引を行うと国内の流動性が引き締まることだ。
 これは資金繰りがひっ迫している中国企業にとって具合が悪い。
 人民銀行は預金準備率を18.5%に引き下げており、今後さらに引き下げる可能性がある。
 しかし流動性の引き締まりを相殺するのにそれで十分かどうかは定かでない。
 資本流入の伸びと中国の銀行預金の伸びには、伝統的に強い相関性がある。

 もう一つの選択肢が通貨を切り下げ、人民元の上昇持続、あるいは少なくとも対ドル相場の安定を当てにしてきた人々の読みを覆してしまうことだった。
 海外で資金を借りている中国企業、特に不動産企業は今、資産と負債のミスマッチに直面している。
 タイの金融機関は1996年、これと似た苦境に陥った。

 大規模な金融災害というものは、投資関連本の著者であるビタリー・カツェネルソンが言うところの「誤った公理」によってもたらされることが多い。
 例えば日本の1980年代のバブル経済は、地価は上がり続けるという信仰の上に築かれた。
 その信仰が間違っていたと分かった時、日本の金融システムは経済全体を道連れに崩壊した。
 同様に、バーナンキ前米連邦準備理事会(FRB)議長らの論者は、米国の住宅価格は決して下がらないと主張していた。
 この誤った公理がサブプライム・ローン危機を招いた。
 人民元は上昇し続けるという信念もまた、そうした間違った公理の一つだ。
 その結末を予想することはできない。
 しかし歴史に学ぶなら、市場の深い信仰が裏切られた時には悪い事態が起こる。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



2015.8.18(火) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44559

通貨問題にとどまらない中国の経済運営の試練
元安で輸出が復活しても、投資の急減速は反転しない
(2015年8月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


●ゴーストタウン化する「中国版マンハッタン」

 中国が先週、人民元を突然切り下げたことで活発になった議論がある。
 この動きは市場改革の勝利なのか、それとも輸出の増加を狙った通貨安競争の試みなのか、という議論だ。

 しかし、3%の人民元安は輸出業者の支援を目指したものだと考える人々でさえ、中国経済の試練を克服するなら人民元レートの下落だけではまったく不十分だという見方は受け入れている。
 「輸出刺激策としての通貨切り下げは有用でもなく必要でもない」。
 HSBCの中国担当チーフエコノミスト、屈宏斌(ク・ホンビン)氏はこう言う。

 また、中国の輸出は今年減少しているものの、
 「アジア全域の輸出業者が同じ試練に直面しており、
 根底にある問題は先進国市場の需要不振だ
ということを示唆している」
と指摘している。

 中国の今年上半期における経済成長率は、公式的には年率換算で7%で、通年の政府目標に見事に沿ったものになっている。
 しかし、この数字を疑問視する向きもある。
 例えば調査会社キャピタル・エコノミクスは、実際は5~6%だろうと考えている。 また、成長の減速を防ぐには追加的な景気刺激策が必要になるとの指摘も多方面から出ている。

■「輸出主導型の経済成長」の幻想

 とはいえ、輸出が回復しても、それによる成長率の押し上げはごくわずかにとどまるだろう。
 一般的な見方に反して、中国はこの10年間、いわゆる「輸出主導型の経済成長」を目指してこなかった。
 2004年から2014年にかけて、純輸出は国内総生産(GDP)成長率(年率)を平均で3%押し下げている。
 この時期の経済成長は、平均すれば52%が投資によって生み出されていた。

 先週発表された経済指標のために李克強首相が夜眠れなくなるだろうことは、投資の重要性で説明がつく。
 先週の発表によれば、2015年1~7月期の固定資産投資は不動産投資の落ち込みが響き、2000年以来の低い伸びに終わった。
 7月の鉱工業生産伸び率も、今年3月に付けた4年ぶりの低水準をかろうじて上回るにとどまった。

 「中国の7月の経済指標には、工業都市・天津で昨夜見られた爆発の破壊力はなかったかもしれないが、
 国内のマクロ経済状況が広い範囲で悪化していることを明らかにして見せた」。
 調査会社ゲイブカル・ドラゴノミクスの中国担当エコノミスト、陳龍(チェン・ロン)氏は先週、こう書いた。
 不動産販売は13カ月連続で減少した後に少しずつ上向き始めたとはいえ、市場ではまだマンションが大量に売れ残っている。
 そのため開発業者は新規の開発を手控えており、鉄鋼やセメントといった素材の需要が打撃を被っている。
 そうしたコモディティーを作る工場もこれを受けて減産に踏み切っており、新たな生産設備への投資も減らしている。

■生産減少の影響が労働市場に波及する恐れ

 これ以上に心配なのは、こうした生産減少の影響が労働市場にもついに波及しつつある可能性があるということだ。
 中国の指導者層は、仕事にあぶれた労働者の急増によって社会が不安定になるリスクに神経を尖らせているが、今のところ、4年連続の経済成長率低下を甘受する姿勢を見せている。
 これまでは失業率が低位に保たれてきたためだ。
 今後はこうはいかないかもしれない。

 中国政府による公式の失業率は当てにならないとあちこちで言われるが、本紙(フィナンシャル・タイムズ)の調査サービス「FTコンフィデンシャル」の独自調査データに基づく労働需要指数によれば、中国の労働需要は7月、2012年以降では初の縮小を記録している。
 同指数の7月の値は49.3で、今年1~6月の平均値67.8を下回った。
 この指数が50を下回ることは、労働者の需要が減っていることを示唆している。

 李克強首相は、成長率を短期的に押し上げるが過大な債務と過剰な生産能力によって問題を悪化させるような強い景気刺激策は採用しない、と繰り返し述べてきた。
 指導者層は、消費とサービスへの依存度が高い新しい経済成長モデルを構造改革によって促進することを望んでいる。
 その方針を堅持するということは、
★.旧いモデルで繁栄してきた重化学工業が
 ヘルスケア、教育、観光、情報技術といった新興産業に道を譲る間、投資減速の痛みに耐えることを意味する。

■今のところは的を絞った景気対策だが・・・

 中国政府はこれまで、インフラ整備事業への財政支出という形で的を絞った景気刺激策を利用しており、2008年の時のように商業銀行が製造業セクターに大量に資金を貸せるようにしてほしいとの圧力には抵抗してきた。

★.2008年の景気刺激策では、中国経済全体の債務残高が2007年の7兆ドルから2014年半ばの28兆ドル(GDP比で282%)へと4倍に膨らむ
ことになった。
 しかし、もし労働市場が悪化を続けることになれば、思い切った政策手段を講じてほしいという圧力が強まることになるだろう。

■最大の問題はデフレ圧力の高まり

 ここでカギを握るのがデフレだ。
 中国の卸売物価指数は40カ月連続で下落しており、7月には下落のペースが加速した。
 コモディティーの国際価格下落が中国のデフレの主因だと言われているが、抱えている債務の額が固定されている一方で名目キャッシュフローが減っている企業にしてみれば、そんな分析は何の慰めにもならない。

 デフレが債務削減努力の邪魔をしている例を挙げよう。
 中国の今年1~7月期における新規借り入れは前年同期実績より21%も少なくなっているが、対GDP債務比率は今年も上昇を続けている。
 債務残高の伸び率は小さくなっているものの、ディスインフレのために名目GDP成長率がそれ以上に小さくなっているからだ。

 UBSの中国担当チーフエコノミスト、王涛(ワン・タオ)氏はこう語る。
 「明らかに、中国が抱える圧倒的に大きな問題は、デフレ圧力が高まっていることだ」

By Gabriel Wildau in Shanghai
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2015.8.19(水) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44569

円とユーロに中国の双子の脅威
人民元切り下げで「ゆでガエル」状態に陥る恐れ
(2015年8月18日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 周りの温度が上昇しているのにそこから逃げることができない――。
 欧州と日本の通貨当局はそんな「ゆでガエル」のような状況に陥る可能性がある。
 鍋を熱しているのは中国の通貨・人民元の切り下げだ。

 中国政府による今回の人民元安誘導は、新興国や資源国で輸出業者の競争、自国の株式市場、およびデフレへのインパクトに対する懸念を引き起こし、それらの国々の通貨全般に影響を及ぼしている。
 では、先進国通貨はどうか。
 米ドルの上昇は、米連邦準備理事会(FRB)に来月の利上げを延期する理由を提供するかもしれないが、複数の為替ストラテジストの見立てによれば、米国経済は人民元切り下げの直接的な影響から十分守られているという。

 ただ、ユーロ圏と日本はそうはいかないかもしれない。
 どちらも(段階は異なるとはいえ)金融緩和の最中にあり、そうすることによって――間接的にではあるが――通貨安を促し、中国との貿易取引が多い輸出業者を支援しようとしてきたからだ。
 中国の景気に減速の兆候が見える中、人民元安は中国の輸出競争力を高め、ユーロ圏と日本は二重の痛手を負うことになるだろう。

■泣きっ面に蜂のECB

 欧州中央銀行(ECB)にとってはさらに悪いことに、ユーロは先週、人民元の切り下げを受けて対ドルで上昇した。
 ユーロ圏の経済が成長していると市場が考えたからではない。
 ユーロはキャリートレードの資金調達通貨であり、その売りポジションの解消が行われているのだ。

 中国政府の元安誘導は、ユーロ圏にとっては厄介なタイミングで行われている。
 原油安、金融緩和、ユーロの競争力向上といった好条件にもかかわらず、ドイツ、フランス、イタリアの3国で先週発表された国内総生産(GDP)統計が示すようにユーロ圏の経済成長の勢いは弱々しく、インフレ率も低迷している。

 中国人民銀行が先週のショッキングな行動に及ぶ前から、ECBは中国のことを懸念していた。
 7月の会合の議事録では、中国の金融情勢がユーロ圏の景気の見通しに「予想以上の悪影響を及ぼしかねない」と警告していた。
 こうした背景を考えれば、ECBのマリオ・ドラギ総裁にとってユーロ高が歓迎できる展開だとはとても言えない――。

 ラボバンクのG10(主要10カ国)通貨担当ストラテジスト、ジェイン・フォーリー氏はそう指摘する。

 では、どう対応するのか。
 フォーリー氏は言う。
 「まず、ドラギ総裁はハト派的な表現を用いてユーロ相場を押し下げようとすると思う」

 それでは不十分かもしれない。
 人民元が切り下げられた後、市場ではユーロ圏のインフレ期待が急低下しているからだ。
 例えば、ECBが長期インフレ期待の指標として注視している5年先スタートのインフレスワップ5年物フォワードレートは、今年3月以来の水準に落ち込んでいる。

 大手金融機関バークレイズのストラテジストたちは、今回の人民元切り下げにより、ECBが量的緩和(QE)の期限を2016年9月以降に延長することを発表するリスクが高まったと考えている。
 また、バンクオブアメリカ・メリルリンチのアナリストらは、インフレ率が低いことからQEの期限延長の議論が促されるだろうと述べている。

■日銀の出方は?

 日銀も同じように考えているかもしれない。
 日本の第2四半期(4~6月期)のGDPは年率換算で1.6%減少し、これまで2年半続いてきた安倍晋三首相の経済再生戦略をむしばんでいる。

 コメルツ銀行の為替ストラテジストたちは、リスクは原油安と中国などの大きな貿易相手国の通貨下落が輸入価格を引き下げ、インフレを圧迫する事態だと指摘。
 「我々は、日銀が一体どの程度の障害を受け入れられるのか疑問に思い始めている。
 日銀は円安をますます歓迎するように思える」
と話している。

■安倍首相にとっても問題に

 東京の為替トレーダーたちは、アベノミクスが行き詰まり、選挙に絡む円安の計算が安倍首相の支持率低下に重くのしかかり始めると、アジア通貨の切り下げの政治作用が首相にとって問題になると言う。
 円安はアベノミクスと日本の輸出産業の上層部に追い風を与えたが、日本の労働力の大半を雇用する中小企業にとっては恩恵がはるかに小さい。

 野村証券のアナリストらは、今のところ、人民元切り下げが日本経済に与える直接的な影響は限定的だと話している。
 だが、野村のエコノミストの木下智夫氏は、人民銀行の動きは市場の需給状況を以前よりよく反映するようになることを意味するため、
 「さらなる人民元安は日本経済により大きな影響をもたらす可能性がある」
と指摘する。

 通貨の鍋の温度は上昇している。
 欧州と日本の政策立案者が飛び出すのは、そう遠くないかもしれない。

By Roger Blitz and Leo Lewis
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朝日新聞デジタル 8月23日(日)5時5分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150823-00000006-asahi-int

中国経済に不安、世界の金融市場に動揺広がる


●主な国・地域の対中輸出額の推移

 中国経済への先行き懸念を理由に、世界の金融市場の動揺が続いている。
 21日の米国株価は2日連続で急落し、原油価格も値下がりした。
 世界各国の中国への依存度が高まっているうえ、中国の経済政策の不透明さもあり、投資家心理が冷え込む構図だ。

 21日はアジア、欧州と続いた株安が米国でも加速。
 ニューヨーク株式市場は、大企業で構成するダウ工業株平均の終値が前日より530・94ドル(3・12%)安い1万6459・75ドルとなり、約10カ月ぶりの安値をつけた。

 きっかけは、中国の製造業の景況感を示す製造業購買担当者指数(PMI)の8月速報値が0・7ポイント悪化したことだ。
 中国の一指標が世界の市場を揺らす。
 背景には、各国と中国経済との関係が近年、急速に強まっていることがある。

 日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、欧州連合(EU)、米国、東南アジア諸国連合(ASEAN)の2014年の対中輸出額は、リーマン・ショックのあった08年と比べ、約1・5~1・7倍に増えている。
 日本の場合は日中関係の悪化などを背景にピークよりも減っているものの、米国に次ぐ2番目の輸出相手国だ。

 輸出額と輸入額を合わせた貿易総額で見ると、中国は13年から米国を抜いて世界最大になっている。
 王毅外相は昨年公表した文書で、「中国は128カ国にとって最大の貿易相手国だ」とした。




中国の盛流と陰り



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