2015年7月3日金曜日

中国がバブルを助長する狙いとは(3):景気回復のシグナルを送ろうと、株式市場を意図的・政策的に操っている

_

● ギブアップ?:愛国的株価防衛を!株価急落は外国勢力の陰謀だ


ダイヤモンドオンライン 2015年7月3日 姫田小夏
http://diamond.jp/articles/-/74303

株価だけが上昇する中国官製バブルの時限爆弾

 ここ数ヵ月、上海では、いわゆる個人投資家と言われる一般市民たちが、証券会社に足しげく通っている。株価ボードとにらめっこする、あの光景が復活するようになったのだ。

 株価が急落した2007年10月以来、株式投資は一般市民にとっての鬼門だった。
 2007年10月の6124ポイントをピークに株価は下落し、2008年10年28月には過去最低の1664ポイントにまで落ち込んだ。
 これにより、個人投資家は資産の多くを失った。

 あの痛手から7年以上が過ぎた。
 中国全土は今、株ブームの熱い空気に再び包まれている。
 「儲けるなら今しかない」と一般市民は株式投資に乗り換える。
 不動産を売却した利益をつぎ込む者もいれば、麻雀で巻き上げた資金を投じる者もいる。

 上海総合指数は過去3ヵ月で54%上昇、6月第1週には5000ポイントを越え、12日にピークとなった。
 「一夜にして成金」という中国固有の神話は、再び現実のものとなった。

 筆者の友人も電話口で興奮を隠さない。
 彼女の手持ちの株は航空銘柄が中心で、2007年以降、売るに売れない塩漬け状態が続いていた。
 ところが、2月以降、株価は急に上昇を始める。
 これ以上は上がらないだろうと見込んだ4月の時点で、ほとんどの銘柄を売却。
 それを軍資金に家族での悲願の訪日旅行を実現させた。

 しかし、5000ポイントを超えるとは彼女にとっては想定外だった。
 6月に入ってもなお上がり続ける株価に、地団太を踏んだ。

 その彼女が「今回の株価上昇は違和感がある」と訴える。
 「どんな銘柄でも軒並み上がっている。
  “ST銘柄”さえも上昇している」というのだ。
 確かに、今年1~4月まで、A株に上場する二千数百と言われる銘柄のうち、下落したのは14銘柄にしかすぎない。
 ちなみに「ST銘柄」とは財務状況に問題があるなど、上場廃止リスクが存在する銘柄のことを指す。

 これほど中国経済が低迷しながらも、株式市場が好調だというのは奇妙な話だ。
 経済成長を伴いながらの株価上昇なら話もわかるが、2014年の中国の経済成長率は7.4%、今年も6.8%と落ち込みが予想される中で、確かに違和感は払拭できない。

■高騰する株価とは裏腹に
中国経済の失速は想像以上

 むしろ、中国における経済の失速は想像以上のスピードで進んでいる。
 中国では今、地元大手企業をはじめとした倒産や生産停止が相次いでいるのだ。

 山西省では省内第二位、民営企業では最大の製鉄企業が生産停止に追い込まれた。
 鉄鋼業界では過剰生産が続いているが、この企業も100億元を超える負債を余儀なくされた。

 過剰在庫を抱えるのはセメント業界も同じだ。
 不動産取引の抑制策で住宅需要が冷え、その業績は2014年から目に見えて落ち込んだ。
 その一方で、この業界を支えたのがいわゆる「理財商品」(ファンドなどの財テク金融商品)だった。
 セメント会社は信託会社を通じて市場から資金を集めるも、その返済(償還)をさらに借り入れで穴埋めするという悪循環に陥っている。

 広東省東莞市では、携帯電話の部品メーカーが閉鎖に追いやられている。
 スマートフォンの普及は商機以上に淘汰をもたらした。
 従来のプッシュキーからタッチパネル式に変わり、薄型化が進行すると、ローテクからハイテクに産業構造の転換を図れない加工業者が脱落しはじめた。
 一時はiPhoneに納入する部品生産で成長した工場も、4S以降の技術革新にはついて行けず、サプライヤーから外される事態となっている。

 江蘇省蘇州市でも同じことが起きている。
 昨年末、数万人規模の従業員を抱える携帯電話の部品メーカーが倒産した。
 短サイクルで投入される新製品の裏側では、
 多くの加工業者が技術更新に追い付かず、ふるい落とされてしまう現実が存在する。

 広東省と江蘇省は、ともに他の省よりも高い外貨収入の水準を誇っていたが、元高が追い打ちをかけ輸出は振るわない。

 江蘇省といえば、つい数年前まで「世界の工場・中国」として脚光を浴びた、沿海部の工業都市だ。
 「長江デルタ」の一翼を担い、著しい発展を遂げた省でもある。そのなかの常州市は外資企業による格好の投資先でもあり、2000年代には製造業がすそ野を広げた。

 その常州市が、地元の中小企業の経営状態について報告書をまとめたが、その内容は生き残りの厳しさを物語っている。

 2014年、常州市には約7万6800の中小企業があったという。
 ところが、近年の不景気で企業数が減少した。
①:登記を抹消した企業は3469社、
②:経営者が行方不明になった企業は3267社、
③:生産停止や営業停止に陥った企業は3583社
に上るという。
 それらの合計は1万社を超えており、中小企業全体の13%超を占めているのである。

 また報告書は「産業構造の転換」への道のりが決して平坦ではないことを打ち明ける。

  「中小企業は産業構造の転換の必要を認識しているが、実力が伴っていない」
と指摘し、さらに産業に多くを占める繊維産業や金属部品産業などは、その利益構造の薄さから、
 「人材の確保もできず、設備も入れられず、構造転換を思うように進められない」
と分析している。

 近年は環境規制が厳しくなっており、このあおりで倒産する企業も少なくない。
 今年4月、国務院は「水質汚染防止計画」を発表したが、これにより、中国各地で大手を含む製紙業が倒産または生産停止に追い込まれている。
 資金不足を理由に、環境基準をクリアさせるための浄化設備が導入できないためだ。
 製紙業など水を大量に使う産業は全国各地で「虫の息」状態だ。

 サービス業では不動産業が大量の過剰在庫を抱えている。
 2014年は中国の70の大中型都市の新築住宅価格の上昇率が鈍化した1年だった。
 「不動産市場の崩壊は中国経済を壊滅に追い込む」という危機感から、中国政府は住宅ローン規制を緩和させるなど、一連の政策を打ち出し市場活性化を狙っている。
 しかし、マネーゲームでさんざん吊り上げられた北京や上海の不動産市場は、政策を緩和したところで、勤労所得者の購入促進には結びつかない。

■株価上昇は虚像?
人為的操作を疑う声も

 「製造業もダメ、不動産業もダメ、何も好転していないのに、株価だけ上がるのはおかしい」――

 一部の上海市民からはそんな声が上がる。

 そもそも上場企業の業績はよくない。
 帳簿を開けば真っ赤っかだ。にもかかわらず、上場企業の董事長(会長職に相当)らは、自らが年間億単位の報酬を得る。
 個人投資家のひとりは
 「我々が株で投じた資金は彼らの給料になっているに過ぎない」
と冷ややかだ。

 人為的な操作の懸念も存在する。
 ごく少数ではあるが、「操作性の強い株価上昇は虚像だ」という意見を掲載する電子メディアもある。

 実際、今年の春節前後から「これから株価は上がる」という噂が市中密かに出回っていた。
 要職に就く人物から「今、株を買っておいた方がいい」と耳打ちされた者もいた。

 2007年のあの株価暴騰もそうだった。
 当時も突然株価が上昇をはじめた。
 翌年には北京五輪、2010年には上海万博を控えており、成長真っただ中の中国経済だっただけに、疑問を挟む余地もなかったが、一部には「人為的操作性」を疑う声も存在した。

 さて、今回の株ブームも6月第3週を過ぎた当たりから、不安定さを示すようになる。
 19日の取引で上海総合指数は、約13%と7年ぶりの大幅下落を見せたのである。

 今回の値上がりについては
 「典型的な投機筋による値上がりで、近いうちに暴落する」
と懸念する声もある一方で、依然
 「6000ポイントの大台突破もあるのでは」
という強気な見方がある。
 今回の株価上昇も政府主導の刺激政策と受け止め、一部ではこの官製バブルは今後も継続すると解釈されているからだ。

 7月1日には主要株価指数が5%急落したが、株離れも懸念されることから、早くも政府は来月から証券取引手数料を3割引き下げると発表し、再び市場を盛り上げようと画策している。

■中国株を支えるのは個人投資家
暴落すれば影響は深刻

 6月15日、ニューヨークタイムズ紙は社説で「瞬時にしての利益獲得は大きなリスクがはらむ」と警鐘を鳴らした。
 また、同紙は個人投資家らが株式投資のために借り入れを行っていることを指摘し、下落に転じたときの影響を警戒した。

 中国株式投資は8900万人が口座を持つといわれ、うち8割近くを個人投資家が占めるといわれている。
 一般市民を中心とした個人投資家は、今回の株ブームでより多くの資金を投じようと親戚や友人、銀行やシャドーバンクといわれる地下金融から資金調達を始めている。

 同時に、既存のシャドーバンクも、集めた資金を株式市場に投入して運用している可能性が強い。
 また、シャドーバンクの形態もより分化し、個人がネット上で理財商品を発行し、個人から資金調達する「P2P」と呼ばれるしくみも見られるようになった。

 ちなみに、このネットを通じた個人間の「P2P」には、10%以上の高い利息をつけ、数千人規模から数億元の資金を集めるものもある。
 しかし、資金の横領や突然の倒産が少なくないため、すでに「P2P」は社会問題と化している。

 市場のグローバル化に伴い、中国株のブームは一国のリスクのみでは語れなくなってきている。
 すでにこのブームは香港、台湾、韓国をも過熱させている。
 また、中国株そのものも、外資による投資を制限しているとはいえ、近年それが容易になってきている。
  中国株をファンド商品に組み込む欧米系投資会社も少なくない。

★.中国政府は景気回復のシグナルを送ろうと、
 株式市場を意図的・政策的に操っている
に過ぎない。

★.中国経済は鈍化しているにもかかわらず、株価だけが上昇する官製バブル。
 形勢が逆転すれば、企業も個人も巻き込んだ大規模な連鎖破綻を招きかねない。



レコードチャイナ 配信日時:2015年7月4日(土) 18時3分
http://www.recordchina.co.jp/a113195.html

上海株暴落で政府もさじ投げた?
 官製メディアが「政府が救世主になることを期待するな」の社説、
 中国ネットは怒り爆発!

 2015年7月3日、環球時報が、最近の上海株暴落を受けて、
 「政府が株式市場の万能救世主となることを期待するな」
との記事を掲載した。

 3日の上海株は、終値が前日比で5.77%の下げ幅となり、3686.92ポイントだった。
 この3週間で上海株は「29%近く下落」しており、
 この1週間だけで「12%」下落した。

 これを受けて環球時報は社説の中で、株式市場のコントロールは市場化という方法であるべきで、政府が別の方法で介入して責任を負うことはないし、そうすることもできず、市場の性質を変えることもできない、と主張した。

これに対して中国のネットユーザーからさまざまなコメントが寄せられた。

「ポイントは、今回の暴落は政府のミスによるものということだ!」
「株価の急上昇は人民日報があおったのに、問題が出たらさじを投げるとは、どういうことだ!」

「4000ポイントは強気相場の始まりにすぎないと言ったのは人民日報だろ」
「株価の急上昇は明らかに政府主導のものだった。
 市場化という簡単な一言で政府の責任をやみくもにするのか」

「権力に限りのある政府はこの責任を負えないが、権力が無限で何の制限も受けない政府ならば、すべての社会問題に責任を負うべきだ」
「俺たちが損するのは別にかまわないさ。
 でもご主人に対する信用が無くなった時は瓦解(がかい)も近いと信じている」

「環球時報の人間は常識がないのか、それとも常識はあるけど恥知らずなのか」
「中国人は政府に頼り過ぎだろ。損をするとすぐに政府のせいにする」



レコードチャイナ 配信日時:2015年7月4日(土) 16時8分
http://www.recordchina.co.jp/a113176.html

愛国的株価防衛を!
株価急落は外国勢力の陰謀だ―中国

 2015年7月3日、米ラジオ局ボイス・オブ・アメリカ中国語版サイトは記事
 「SNSで株式市場国防戦争の呼び掛け、
 中国政府は愛国主義での株価防衛を望むのか?」
を掲載した。

 続落が続く中国株式市場で奇妙な現象が見られるという。
 在米の中国メディア・ウォッチャーの温雲超(ウェン・ユンチャオ)氏によると、大手IT企業・新浪微博の常務副総経理である曹増輝(ザオ・ヅァンフイ)氏がSNSのアイコンを五星紅旗に変えて、国家を守るために株価防衛の戦いに参加しようと呼び掛けている。
 他にも数人の著名ネットユーザーが同様の主張している。
★.彼らの分析によると、今の株価急落は外国勢力による空売りが原因なのだとか。
★.他にも習近平(シー・ジンピン)総書記と敵対する江沢民(ジアン・ズーミン)元総書記一派が空売りを仕掛けているとの説
も流布していた。

 曹氏のように政府との関係が深い著名ネットユーザーが株価買い支えを呼び掛ける、その背景には何があるのか。
 温氏は中国政府が愛国心による株価防衛を狙っていると分析する。
 もっともドン・キホーテのような無謀な試みだけに効果があるとは考えにくい。
 止まらぬ株価続落に中国政府の焦り
が見える。



JB Press 2015.7.7(火) 柯 隆
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44220

外科手術が必要な中国「一党独裁政権」
人民に痛みを強いるか、共産党が痛みに耐えるか

 中国工程院院士の鐘南山氏は、
 「中国政府は世界で最も力の強い政府であり、やろうと思えば、何でもできる」
と言う。
 この表現は、中国政府の力を決して誇張するものではない。
 一党支配政治において、その政府の力は民主主義の政府は比べものにならないほど強い。

 鐘氏の指摘のなかで非常に重要なのは、中国で所得格差の縮小や環境の改善などがなかなか進まないのは、政府が「できない」からなのではなく、「懸命に取り組まない」からだ、としている点だ。

 ギリシャの財政破綻の一方で、上海株式市場の株価指数が乱高下している。
 ギリシャ危機の原因は政府財政の不健全性にあると言われるが、突き詰めれば、財政を統合せず通貨だけ統合するユーロ圏のモデルに問題があったと言わざるを得ない。

 構造的な問題を抱える中国経済も、制御不能な状況に陥っている。
 李克強首相は「中国経済はハードランディングしない」と強気な発言を繰り返す。
 しかし、上海市場の株価を見る限り、すでにハードランディングしていると言えるだろう。
 構造転換が遅れ、ファンダメンタルズがまったく改善されないなかで、株価は乱高下している。

■問題に取り組む順序を間違えている

 カナダで女子サッカーのワールドカップ大会が開かれた。
 中国チームは決勝トーナメントでアメリカに敗れたが、ベスト8進出はかなり善戦したと言えよう。

 実は、習近平国家主席は大のサッカーファンである。
 今年に入ってからサッカー振興を専門に担当する副首相(劉延東氏)を任命したぐらいである。

 しかし政府にとってサッカーより優先すべきことは山ほどある。
 最近、中国税関が40年前に加工された冷凍肉を10万トンもインドなどから密輸入した違法業者を摘発したという。
 まさに何でもありの状況である。
 中国では、食品安全性の問題はいまだに改善されていない。
 サッカー振興は国民の愛国心を高揚させることができるかもしれないが、食品安全性の担保のほうが一層重要であるはずだ。

 中国政府の力強さについて、疑う余地はない。
 だが、何に優先的に取り組むかのプライオリティ(順序づけ)に問題があるように思われる。

 習近平政権は誕生以来、汚職撲滅に力を入れているが、対症療法に終始している。
 幹部腐敗の温床を取り除く政治改革を行わなければ、汚職撲滅はいつまでも終わらない。
 習近平国家主席の言葉を借りれば、
 「汚職没滅は、ストックの汚職を減らすだけでは不十分であり、
 フローの汚職を抑えなければならない」
ということだ。
 それは正しい認識であるが、実現するには政治改革を進めなければならない。

 また、中国には依然として2億人の貧困層がいると言われている。
 貧困問題の解決に取り組むことも政府の急務である。

 来たる9月3日、中国政府は北京で抗日戦争の勝利を記念する大規模な軍事パレートを行うと発表した。
 抗日戦争に参加した多くの老兵は、極めて困窮した生活を送っている。
 軍事パレートの予算を節約し、老兵の生活支援に回すべきではないだろうか。
 どう考えても、サッカーの振興よりは重要な問題のはずである。

■政府の恣意的な市場介入が逆効果に

 中国は歴史の古い国であるが、市場経済を導入してからわずか20年程度しか経っていない。
 その分、成長力は旺盛であるが、目下の中国経済は成長力を失ったように見える。

 中国経済の不確実性は、政府の無責任な行動によって生み出されている。
 つまり、政府による恣意的な市場介入である

 政府は経済成長を押し上げるために、極端な金融緩和を実施する。
 その結果、行き場のない資金が不動産市場に押し寄せ、不動産バブルを引き起こす。
 政府は不動産バブルの崩壊を心配し、不動産取引を抑制する措置を採る。
 すると、資金は新天地を追い求めて株式市場に流れ、株価の高騰をもたらす。

 国務院発展研究センターの呉敬蓮研究員は、
 「我が国の株式市場は賭博場そのもの」
と指摘する。
 やや極論だが認識としては間違っていない。
 零細な個人投資家は、手元の貯蓄を株式投資に注ぎ込むが、ほとんどの場合、大口のファンドに巻き上げられてしまう。
 そのメカニズムはカジノとよく似ている。
 政府は株式市場を整備しようとはせず、国有企業の資金調達の場として利用しているのみである。

■効率の追求と格差の拡大

 習近平国家主席が取り組む汚職撲滅は、確かに国民から支持されている。
 とはいえ、人心を完全に掌握するまでには至っていない。
 なぜならば、追放された汚職幹部は氷山の一角に過ぎないことに加え、格差の縮小が実現されていないからだ。

 中国の歴史学者によれば、近代化と工業化の過程において
 「効率」が唯一の目標と基準となり、
 社会規範だった「道徳」は顧みられなくなった。
 これこそが中国社会の最大の悩みである。

 ローマクラブが1972年に発表した報告書「成長の限界」は今なお我々に警鐘を鳴らしており、効率を0追求する風潮は一向に衰えない。
 しかし、効率の追求は格差を拡大させ、環境を犠牲にする。

 この35年で中国の労働生産性は10倍以上も向上したが、同時に格差も急速に拡大している。
 経済の自由化を進めれば、市場競争が促進され、効率は向上する。
 本来、格差の縮小を是正することは政府の役割であるが、現実は真逆である。
 政府は効率の向上を推進するが、格差の縮小には取り組もうとしない。

■必要なのは痛みの伴う「外科手術」

 独裁政治を行う政府の力は無限大のように見えるが、チュニジアのジャスミン革命に端を発する「アラブの春」からも分かるように、
★.何でもできる強力な独裁政治は、
 臨界点を超えればたちまち無力になってしまう。

 集中し過ぎた権力は改革を妨げることになる。
 中国国内では国民の不満が募り、自由と人権を求める「新公民運動」が高まっている。
 それを封じ込めると、さらに強い反発を招くことになる。

 改革は外科手術のようなもので、短期的に痛みを伴う。
 いかなる政治家もできることならば、改革を先送りしたいと考える。
 しかし習近平国家主席にとって、改革を先送りする選択肢はない。
 人民に痛みを強いるか、共産党が痛みに耐えるかは、中国将来の明暗を分ける分水嶺になる。



2015.7.6(月) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44225
(2015年7月3日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

乱高下する中国株、売買の8割以上は個人投資家
Q&A 中国の株価指数はなぜ数時間で10%も変動するのか?

 中国には今、米国に次いで世界第2位の規模を誇る株式市場が存在する。
 だが、いまだに極端なボラティリティー(変動)が特徴的で、代表的な株価指数が数時間で10%も変動することがよくある。
 例えば、6月のある日には、中国株の時価総額が7000億ドル以上も吹き飛んだ。

■中国の株式市場の投資家の構成はどうなっている?

 個人投資家が売買の80~90%を占めている。その多くは初めて投資する人たちだ。今年5月だけで、1200万件の取引口座が開設された。

 このことは、株式を売買する何百万という人たちが2007~08年の株式市場のバブルと崩壊の直接的な記憶を、ほとんど、あるいは全く持たないことを意味している。

 プロのファンドマネジャーでさえ、非常に短期の時間軸で行動することが多い。
 多くのファンドマネジャーは月間あるいは四半期のパフォーマンスで評価されるため、市場が動く時は、市場の値上がりを追いかけるよう圧力がかかる。

■国の政策は市場にどのような影響を与えたのか?

 中国の市場は、よく政策主導型と言われる。
 それは金融政策の枠を超え、証券や銀行の規制にまで深く入り込む。
 国営メディアの言葉も一定の役割を果たしており、さまざまな政府機関紙の協力的なメッセージがこれを裏付けている。

 だが、政府の発表は自由に解釈できることが多く、何百万人という投資家が真意を読み取ろうとして、急激な上昇や下落につながる。

 株式市場が政府にとっての政策手段であり、
 株価指数が国有企業に偏っている状況が続く限り、
 中国政府の締め付けが著しく弱まる可能性は小さい

 政府は、例えば外国の大手資産運用会社や政府系ファンドに従来より自由なアクセスを与えることで、長期的な機関投資家を育成しようとしてきた。
 だが、進歩は遅い。

■信用取引が成長の背後にある主な要因として挙げられてきたが、
それは一体どのように機能するのか?

 株式を売買するために借りたカネを使うことは世界中の株式市場に共通する特徴だが、中国ではこの1年、この信用取引が爆発的に増加した。

 マッコーリーによれば、信用取引が時価総額全体に占める割合は今年に入って過去最高に達した。
 実際、歴史上、どの時点における他のどの市場のどんな水準よりもはるかに高い割合だという。

 高水準のレバレッジは、株式相場がこの1年で極めて急激に上昇した理由を説明する一因になっている。
 だが、そうした借り入れの結果、投資家が追加証拠金の要求に応えるのに苦しんだ途端、株式市場は急激な下落に陥りやすい状態になる。

 規制当局は、金融システムの中で信用取引に伴う融資の水準を下げようとした。
 これが最近の株価下落の主な理由になっている。

■新規株式公開(IPO)も市場を動かす一因になっているのか?

 中国における新規上場のための制度は依然、当局によって厳しく統制されている。
 国が事実上、新株の発行・売出価格を設定しており、新株を購入できる投資家に迅速かつ大幅なリターンを事実上保証している。

 上海市場が急落した時でさえ、新規公開株は大抵、44%の値幅制限いっぱいまで上昇していた。

 その結果、投資家は新規上場銘柄が登場する前に市場から資金を引き揚げるため、数日間にわたって数十億ドルの流動性が失われることになる。
 これが市場を撃沈することがあるが、その後、資金が再び解き放たれた時は市場を押し上げる。

 規制当局は、見直しの必要性に気づいており、IPOの承認権限を証券取引所に委譲することを約束している。

■ヘッジのための選択肢はどのようなものか?

 中国は株を空売りするための制度を導入しているが、実際にはほとんど役に立たない。
 借り入れコストが高く、利用できる借株が限られているからだ。

 持ち高をヘッジする唯一の実行可能な方法は指数先物を利用することだが、個別の銘柄やセクターを売買している投資家には助けにならない。

 代わりに、トレーダーたちは、持ち高を減らしたり増やしたりするために売買する。
 地合いが変わった時には、これが暴走を招きかねない。

■変化の見通しは?

 規制当局が空売りを導入しようとしたということは、問題を認識していることを示している。
 4月に小型株を空売りする手段が登場したことは、正しい方向に向かう重要な一歩だ。
 だが、取られた対策は必要とされるものにはほど遠く、当局が相変わらず空売りを容易にすることの影響を警戒していることを示している。

By Josh Noble in Hong Kong



夕刊フジ 7月11日(土)16時56分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150711-00000006-ykf-int

AIIBの野望も崩壊寸前 
習政権、危険な“狂乱介入” 
上海株ショック

 上海株式市場は10日午前も前日に続き大幅高となったが、強権的な株価維持策で中国市場のゆがんだ実態が白日の下にさらされ、習近平政権が失った信頼は計り知れない。
  取引停止中の銘柄が“時限爆弾”となり、暴落モードが長期化するとの見方もあるなか、アジアインフラ投資銀行(AIIB)で存在感を高め、人民元を国際通貨化として認めさせようという習政権の野望も、株バブルとともに崩壊寸前だ。

 上海総合指数は9日に5・8%高の上昇となり、10日午前も一時6%を超える大幅高で推移した。

 上昇の背景には当局の介入があった。
 9日には公安当局の幹部が証券当局に乗り込んだ。
 新華社電によると、中国公安省の孟慶豊(もう・けいほう)次官が調査チームを率いて中国証券監督管理委員会に出向き、同委員会と合同で「悪意のある」空売りに関して捜査することを決定。
 違法行為に対して厳罰で臨む姿勢を示した。

 当局のコワモテもあってか、市場は反発したが、実際には上海証券取引所のショートポジション(売り持ち)はごくわずかで、ブルームバーグは「間違った犯人捜しに当局躍起か」と冷ややかだ。

  国有資産監督管理委員会は9日、地方当局に対し、管轄の国有企業が上場企業の株式を買い増した状況を毎日報告するよう求める通達を出した。
 株を買わない国有企業を浮き彫りにする狙いで、事実上国有企業に買い増しを迫った。

 当局は株価維持になりふり構わないが、市場に下げ止まり感はみられない。
 9日には上海と深●(=土へんに川)の両市場で全体の半数を超える約1600銘柄が取引を停止、「潜在的な売り圧力を抱えており、取引が再開されれば売り浴びせを受ける」(銀行系証券)と警戒する。

 共産党中央宣伝部は国内の報道機関に
 「株式市場の問題が政治化するのを回避し、(批判の)矛先が共産党や政府に向かうのを防げ」
と指示する緊急通達を出した。

 通達は
(1:株式市場と政治を関連付けるな
(2):株価の上昇や下落を冷静に、客観的に報道せよ
(3):株価の動向を投資家が理性的に受け止めるよう世論を導け
(4):誇張せず、評論記事は慎重に発表せよ
(5):経済政策の成果を宣伝し、中国経済の先行きを前向きに伝えよ
-などと指示している。

 ただ、投資家が冷静さを失うほど投機をあおったのは習政権自身だ。

 週刊東洋経済元編集長の勝又壽良氏は
 「不動産バブル崩壊を受けて、人民日報などが株式投資をあおった責任が重い
 中国政府は間違った政策を、別の間違った政策でカバーしようとしているが、
 中国経済の基盤が変わらないので、政策失敗による損失は拡大していく」
とみる。

 損失を被った個人投資家の政府への不信感がくすぶるなか、社会秩序の動揺が現実味を帯びてきた。
 証券監督管理委員会前では8日、株取引で数千万円を失った投資家らが特定の企業の名前を書いた紙を掲げ、株価暴落への不満を口々に訴えた。
 150万元(約3000万円)損したという女性(53)は
 「私たちの損害の責任追及を政府にしてもらいたい」
と訴えた。
 インターネット上では「(政府に)だまされた」との書き込みも相次いだ。

 標準的な市場経済と大きくかけ離れた中国当局の姿勢が明るみに出たことは、
 アジアインフラ投資銀行(AIIB)設立や現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」などの政策を打ち出し、国際金融の世界で存在感を示そうとしている習政権にとって大きな痛手だ。

 人民元をドル、ユーロに続く国際通貨にするという野望の実現も遠のきそうだ。
 ブルームバーグによると、野村ホールディングスの中国担当チーフエコノミストは、
 株価暴落を受けて、政策当局者が海外への市場開放に及び腰になる公算が大きい
と指摘した。
 株価急落に見舞われている中国が資本自由化のペースを緩めれば、国際通貨基金(IMF)が今年行う特別引き出し権(SDR=IMF加盟国が資金を引き出す権利)の通貨バスケット見直しで人民元が採用される可能性が低下するという。

 前出の勝又氏は警鐘を鳴らす。

 「“社会主義市場経済”なるものを掲げて、国家があらゆる面で経済活動へ干渉する中国のやり方は、世界共通のルールから著しく逸脱している。
 世界の金融市場関係者は習政権の政策マネジメント能力に疑問を持っており、市場リスクの主役はギリシャから完全に中国に移っている」



中国の盛流と陰り



_