『
2015年06月12日(Fri) 岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5033?page=1
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5033?page=2
米の中国分析のベテランが告白
「自分の対中認識は間違っていた」
米ハドソン研究所中国戦略センターのピルズベリー所長が、今年2月発刊の著書“The Hundred-Year Marathon – China’s Secret Strategy to Replace America as the Global Superpower”において、
中国は、2049年までに米国に代わって世界の支配国になることを目指している、
と述べています。
すなわち、
米国は、中国を支援し続けていけば、中国が民主的で平和な国家になり、地域や世界を支配しようなどと考えないだろうと想定していたが、完全な誤りであった。
我々は、中国内の強硬派の力を過小評価していた。
強硬派は、
中国建国100年の2049年までに経済、軍事、政治のすべての面で世界のリーダーになるとの計画(100年のマラソン)
を有し、毛沢東に始まる歴代の政治指導者に助言することで、建国当初からそれを実施に移していたのだ。
強硬派は、300年前の中国、すなわち世界のGDPの3分の1を占める中国を復活させたいのだ。
中国の強硬派は、天安門事件以降特に力を強めた。
2012年以降、中国人は、
「中国主導の世界秩序」をおおっぴらに議論し、
「中華民族の再興」とともに同秩序が訪れると信じている。
最近になって、中国人は、私及び米国政府を最初(1969年)から騙していたと実際に語った。
これは、米国政府史上最大のインテリジェンスの失敗である。
中国は、最初から米国を「帝国主義者である敵」と認識し、米国を対ソ連カードとして用い、米国の科学技術を吸収、窃取するつもりだったが、米国の中国専門家はこれに気づかなかった。
中国政府は公式に多極化世界の実現を主張しているが、実際には、それは、最終的に中国が唯一の指導国となる世界に至る途中段階に過ぎない。
米国は中国に多大の支援と協力をしてきたにもかかわらず、中国の指導者は、150年以上にわたり米国が中国を支配しようとしてきたと考えており、彼らは中国が米国を逆に支配するためにあらゆることを行うつもりである。
彼らにとって世界はゼロ・サムである。
このような意図を有していたにもかかわらず、中国は、欺瞞、宣伝、スパイ等を用いて、中国が後進国で、軍事的に不活発で、弱い支援対象国であるとの誤ったイメージを西側諸国の関係者に与え続けた。
中国はまた、西側諸国内の中国専門家をモニターし、様々な手段で操作してきた。
中国は、「暗殺者の棍棒」と言われる非対照戦力をもって米国の通常戦力を破る作戦を考えている。
実際に、この非対照戦力は有効であり、ペンタゴンの戦争シミュレーションで米軍が初めて敗れたのはこの中国の非対照戦力に対してだった。
中国は、高い関税を課して重商主義的政策をとり、国営企業に補助金を与え、天然資源を直接コントロールしようとしている。
中国の国営企業は今でも国内GDPの4割を占め、市場に反応するのではなく、中国共産党の指示に従っている。
2049年に中国主導の世界秩序の中で中国が望んでいるのは、個人主義よりも集団主義を重んじる中国の価値、民主主義への反対、米国に敵対する諸国との同盟システムなどである、と論じています。
出典:Michael Pillsbury, The Hundred-Year Marathon – China’s Secret Strategy to Replace America as the Global Superpower(Henry Holt and Company, 2015)
* * *
本書は、『100年のマラソン』というタイトルや、その内容が一般の感覚では俄に信じがたいものを含んでいることから、いわゆる浅薄な「中国脅威本」の一つであると捉えられかねませんが、そういう類いのものとは全く異なります。
米国の対中政策の転換に影響を与え得る書物です。
まず、著者のピルズベリーですが、1969年から、CIA、国防総省、米上院特別委員会等に勤務し、対中政策の基盤となる中国の対米認識分析や米国の対中政策選択肢提示を地道に続けてきた人物です。
2006年頃までは、米国の対中関与政策を支持する「対中協調派」の中心的人物でした。
本書の中でも明らかにしていますが、ピルズベリーは、ほとんどの対中国インテリジェンスや米国内の対中国政策をめぐる秘密文書にアクセスしてきています。
本書の内容、主張は、ピルズベリーが直接入手した関係者からの証言や、これまでアクセスした文書に基づいており、その信憑性は高いと思われます。
ピルズベリーのような中国分析の大ベテランが、
「自分の対中認識は間違っていた。
中国に騙されていた」
と本書で告白したわけですから、本書がワシントンの中国政策に関わる政府関係者や専門家に与えた衝撃は大きかったようです。
本書の影響はすでに現れているようであり、例えば、本年3月には、米国のシンクタンクである外交問題評議会(CFR)が『中国に対する大戦略の変更(Revising U.S. Grand Strategy Toward China)」という小冊子を発表しています。
同冊子は、米中関係は、戦略的ライバル関係になるとの可能性が高いとの前提で、対中政策をバランシングに重点をおくものに変更しなければならないと提言しています。
米国の対中政策は南シナ海での中国の人工島建設などにより、強硬化しているように見えますが、今後どう推移していくか注目されます。
なお、ピルズベリーは、昨年9月にも、1949年以来西側の対中観が誤って来たのは西側が中国を希望的観測から見て来たからである、と論じた論説を発表しており、2014年10月27日付本欄で紹介しています。
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2015年06月12日(Fri) 岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5033?page=1
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5033?page=2
米の中国分析のベテランが告白
「自分の対中認識は間違っていた」
中国は、2049年までに米国に代わって世界の支配国になることを目指している、
と述べています。
すなわち、
米国は、中国を支援し続けていけば、中国が民主的で平和な国家になり、地域や世界を支配しようなどと考えないだろうと想定していたが、完全な誤りであった。
我々は、中国内の強硬派の力を過小評価していた。
強硬派は、
中国建国100年の2049年までに経済、軍事、政治のすべての面で世界のリーダーになるとの計画(100年のマラソン)
を有し、毛沢東に始まる歴代の政治指導者に助言することで、建国当初からそれを実施に移していたのだ。
強硬派は、300年前の中国、すなわち世界のGDPの3分の1を占める中国を復活させたいのだ。
中国の強硬派は、天安門事件以降特に力を強めた。
2012年以降、中国人は、
「中国主導の世界秩序」をおおっぴらに議論し、
「中華民族の再興」とともに同秩序が訪れると信じている。
最近になって、中国人は、私及び米国政府を最初(1969年)から騙していたと実際に語った。
これは、米国政府史上最大のインテリジェンスの失敗である。
中国は、最初から米国を「帝国主義者である敵」と認識し、米国を対ソ連カードとして用い、米国の科学技術を吸収、窃取するつもりだったが、米国の中国専門家はこれに気づかなかった。
中国政府は公式に多極化世界の実現を主張しているが、実際には、それは、最終的に中国が唯一の指導国となる世界に至る途中段階に過ぎない。
米国は中国に多大の支援と協力をしてきたにもかかわらず、中国の指導者は、150年以上にわたり米国が中国を支配しようとしてきたと考えており、彼らは中国が米国を逆に支配するためにあらゆることを行うつもりである。
彼らにとって世界はゼロ・サムである。
このような意図を有していたにもかかわらず、中国は、欺瞞、宣伝、スパイ等を用いて、中国が後進国で、軍事的に不活発で、弱い支援対象国であるとの誤ったイメージを西側諸国の関係者に与え続けた。
中国はまた、西側諸国内の中国専門家をモニターし、様々な手段で操作してきた。
中国は、「暗殺者の棍棒」と言われる非対照戦力をもって米国の通常戦力を破る作戦を考えている。
実際に、この非対照戦力は有効であり、ペンタゴンの戦争シミュレーションで米軍が初めて敗れたのはこの中国の非対照戦力に対してだった。
中国は、高い関税を課して重商主義的政策をとり、国営企業に補助金を与え、天然資源を直接コントロールしようとしている。
中国の国営企業は今でも国内GDPの4割を占め、市場に反応するのではなく、中国共産党の指示に従っている。
2049年に中国主導の世界秩序の中で中国が望んでいるのは、個人主義よりも集団主義を重んじる中国の価値、民主主義への反対、米国に敵対する諸国との同盟システムなどである、と論じています。
出典:Michael Pillsbury, The Hundred-Year Marathon – China’s Secret Strategy to Replace America as the Global Superpower(Henry Holt and Company, 2015)
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本書は、『100年のマラソン』というタイトルや、その内容が一般の感覚では俄に信じがたいものを含んでいることから、いわゆる浅薄な「中国脅威本」の一つであると捉えられかねませんが、そういう類いのものとは全く異なります。
米国の対中政策の転換に影響を与え得る書物です。
まず、著者のピルズベリーですが、1969年から、CIA、国防総省、米上院特別委員会等に勤務し、対中政策の基盤となる中国の対米認識分析や米国の対中政策選択肢提示を地道に続けてきた人物です。
2006年頃までは、米国の対中関与政策を支持する「対中協調派」の中心的人物でした。
本書の中でも明らかにしていますが、ピルズベリーは、ほとんどの対中国インテリジェンスや米国内の対中国政策をめぐる秘密文書にアクセスしてきています。
本書の内容、主張は、ピルズベリーが直接入手した関係者からの証言や、これまでアクセスした文書に基づいており、その信憑性は高いと思われます。
ピルズベリーのような中国分析の大ベテランが、
「自分の対中認識は間違っていた。
中国に騙されていた」
と本書で告白したわけですから、本書がワシントンの中国政策に関わる政府関係者や専門家に与えた衝撃は大きかったようです。
本書の影響はすでに現れているようであり、例えば、本年3月には、米国のシンクタンクである外交問題評議会(CFR)が『中国に対する大戦略の変更(Revising U.S. Grand Strategy Toward China)」という小冊子を発表しています。
同冊子は、米中関係は、戦略的ライバル関係になるとの可能性が高いとの前提で、対中政策をバランシングに重点をおくものに変更しなければならないと提言しています。
米国の対中政策は南シナ海での中国の人工島建設などにより、強硬化しているように見えますが、今後どう推移していくか注目されます。
なお、ピルズベリーは、昨年9月にも、1949年以来西側の対中観が誤って来たのは西側が中国を希望的観測から見て来たからである、と論じた論説を発表しており、2014年10月27日付本欄で紹介しています。
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2015年06月09日(Tue) 岡崎研究所
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5030?page=1
オバマの「自己封じ込め」外交への批判
筆者のヨッフェは、ポーランド生まれのユダヤ系で、西独を経て米国で教育を受けた人物です。
ドイツの新聞紙、「Die Zeit」の主筆を長年務め、米国でも諸研究機関・大学に籍を置き、欧米をまたにかけた現代の代表的識者の一人です。
その彼が、ここではオバマ外交に対して「6年間、何も学んでいない」と、愛想を尽かしています。
すなわち、5月9日「戦勝記念日」でのモスクワ軍事パレードは、そのものものしさで世界の心胆を寒からしめたが、西側首脳は参列せず、プーチンにとってはさびしい結果に終わった。
オバマ大統領に歴史感覚があったなら、ワシントンで単なる戦勝記念に終わらない心温まる集まりを組織したであろう。
米国ばかりでなく他の国々をも利した、パックス・アメリカーナが70年前始まったことを寿ぐために。
70年前の米国は現在と同じく疲れており、ルーズベルトは米軍を2年以内に欧州から撤収することを告げている。
しかし、ルーズベルトはヤルタ会談の2カ月後に死んでおり、後任のトルーマンの時には冷戦が始まっていた。
トルーマンは米軍撤収を止め、1947年にはジョージ・ケナンが「X論文」でソ連封じ込め政策を発表した。
ケナンは古典的なバランス・オブ・パワーに基づく安定維持を定式化したが、現在のホワイトハウスがこの論文を読んでいるとは思えない。
また、当時の米国は国連、NATO、IMF、GATT等の国際体制を作り上げた。
これらは米国の力が相対的に低下した現在でさえ、パックス・アメリカーナの基礎として、安全保障、自由貿易、航海の自由、成長と安定をもたらし、米国のみならず他国の利益にもなっている。
しかし、オバマ大統領は、挑戦国を封じ込める代わりに、自分を封じ込め、拡張主義国を抑止する代わりに、自分自身を抑止する。
中露が軍拡をしている時に軍事予算を削減している。
もし、米国が欧州に本格的な戦力を保持していたならば、プーチン大統領は、ウクライナに侵入していないだろう。
オバマはイランを中東のバランス要因として使おうとしているが、これは全くの幻想である。
イランは地域の覇権国になりたいのであり、米国の思うように動くはずがない。
超大国は、手をゆるめることを許されない。
ウィルソン大統領は1919年に国際連盟から手を引いたことで第2次世界大戦への道を開いたし、カーター大統領は1977年、「アメリカは、共産主義に対する過度の恐怖を捨てた」と宣言したが、その2年後にはソ連のアフガニスタン侵攻を招いた。
オバマは6年も大統領をやっているが、何も学んでいない。
プーチンもハメネイも、オバマのやることにうんざりしているだけで、あまり真剣には受け取っていない。
自分で自分を封ずることは、相手の尊敬を招かないのである、と述べています。
出典:Josef Joffe‘The Lessons Obama Could Learn From V-E Day’(Wall Street Journal, May 10, 2015)
http://www.wsj.com/articles/the-lessons-obama-could-learn-from-v-e-day-1431299499
* * *
オバマ外交をほぼ見限った、手厳しい論説です。
ヨッフェは特定の党派、国の利益を代表しているわけではないので、それだけオバマ政権にとってはひびきます。
しかし先進諸国は、オバマ政権や米国をあからさまに見限る愚は冒すべきでなく、逆に団結を強めるべきでしょう。
オバマ政権は、アフガニスタン・イラクからの撤兵とリーマン金融危機からの脱却、この2つを至上命題として誕生しました。
この2つの命題には何とか対処していますが、その間世界で新たな紛争が続発し、対応が後手に回っているのが現状です。
米国は、自分が直接関与していない紛争については、ほぼ常に介入をためらいます。
そして、原理・原則より現実的利益を優先します。
今般ケリー長官が訪露して、ウクライナを抑えてでも米露宥和を優先する構えを明らかにしたのは、後者の例です。
日本にとっては、9月に予定される習近平国家主席の米国訪問の頃、米国が中国に対してどのような姿勢を取るかが注目点となります。
米国外交が一貫性を欠き、国内の与野党対立の煽りを受けやすいものであることは、オバマ以後も変わりません。
肝心なのはそれによって「米国主導の戦後世界の終焉」などと言ってあたふたし、自らの首を絞めるようなことはしないことです。
ヨッフェがこの論説で言っているように、「米国主導の戦後世界」は日本を含めた多くの国にとって利益となっているからです。
GDPの額では、OECD諸国のシェアはかつての80%近くから60%近くに低下していますが、BRICS諸国の成長の大きな部分はOECD諸国からの投資・技術移転によって賄われています。
そしてBRICS諸国は例外なく、OECD諸国以上の構造的なマイナス要因を抱えています。
軍事力についても、米軍を中心にOECD諸国が有する力には相変わらず圧倒的なものがあります。
従って、OECD諸国のうち政権が安定している諸国が中心となって、腰の据わった情勢観、世界開発・安定戦略を発信していくことが必要でしょう。
来年、日本はG7(8?)先進国首脳会議の議長国であり、重要な役割を担うことになります。
G20首脳会議の2016年議長国が中国であるため、何かと対比されるでしょうが、中国の札束外交に対抗することに汲々とするのではなく、途上国の安定と開発、先進国の安定と福祉の維持のために大所高所からのメッセージをG7(8?)として発出する準備を今から開始するべきではないでしょうか。
』
【中国の盛流と陰り】