アメリカという国は打たれたら打ち返す国である。
打たれたままガマンする国ではない。
それがヤンキー魂であるということに誇りを持っている国民たちである。
だがしかし、オバマは違う。
彼はめったに動かない。
中国の防空識別圏の設定のときは、中国に尾ひれを振った。
このとき日本政府は「オバマの裏切り」を身にしみた。
オバマはダメだ、と感じ
「アメリカを必要としない日本」
へと動き出し、
「アメリカをすこぶる有効に利用する日本」
へと舵を大きく切った。
尖閣問題での中国の外交ベタを利用して、棚上げであった尖閣諸島を
インターネットを使って領有宣言
し、自衛圏内に取り込んだ。
また、アメリカの衰退を見てとって、
「普通の国」宣言で防衛能力強化
に乗り出してきた。
いまのところ、
日本はアメリカと中国から有効な利益を引き出している
とみていいだろうと思う。
『
ダイヤモンド・オンライン 2015年6月8日 北野幸伯 [国際関係アナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/72774
「AIIB」後~米国の逆襲で、
激変する日米中ロのパワーバランス
「AIIB事件」で世界的に孤立した米国が、中国に逆襲をはじめている。
一方、これまで「主敵」だったロシアとの和解に乗り出した。
一方、「尖閣国有化」以降、戦後最悪だった日中関係にも、変化がみられる。
■コロコロ変わり複雑!
大国間の関係は今、どうなっているのか?
★.「AIIB事件」以降、
米国の対中戦略が大きく変わってきた。
南シナ海における「埋め立て問題」で中国を激しく非難するようになったのだ。
一方で、これまで最大の敵だったロシアとの和解に乗り出した。
● 「昨日の敵は今日の味方」。
中国包囲網形成のために、米国のケリー国務長官がロシアを電撃訪問した Photo:ロイター/アフロ
★.対する中国政府は、日本からの訪中団を大歓迎し、
「日中和解」を演出した。
“昨日の敵は今日の友”を地で行くほどにコロコロ変わり、複雑にみえる大国間の関係。
いったい今、世界で何が起こっているのだろうか?
2015年3月に起こった「AIIB事件」は、後に「歴史的」と呼ばれることになるだろう(あるいは、既にそう呼ばれている)。
3月12日、もっとも緊密な同盟国であるはずの英国は、米国の制止をふりきり、中国が主導する「アジアインフラ投資銀行」(AIIB)への参加を決めた。
その後、ドイツ、フランス、イタリア、オーストラリア、韓国、イスラエルなども続々と参加を表明し、米国に大きな衝撃を与えた。
この問題の本質は、
「親米国家群が米国の命令を無視し、中国の誘いに乗ったこと」
である。
「誰もいうことを聞かない国」を、はたして「覇権国家」と呼ぶことができるだろうか?
「AIIB事件」は、「米国の支配力衰退と、中国の影響力増大」を示す歴史的な出来事だったのだ。
しかし、米国は、あっさり覇権を手放すほど落ちぶれていない。
「米国は必ず『リベンジ』に動くだろう」。
筆者はそう確信し、米国の過去の行動から予想される「リベンジ戦略」について書いた(後半の記事を参照)。
そして米国は、はやくも予測通りの行動をとりはじめている。
■「南シナ海埋め立て問題」で緊迫する米中関係
もっともわかりやすいのは、米中関係が急に冷え込んできたことだろう。
これは、特に世界情勢を追っていない人でも感じているはずだ。
表向きの理由は、「中国が南シナ海で大規模な埋め立てをしていること」である。
たとえば、米国のカーター国防相は5月27日、中国の行動を厳しく批判した。
<
米国防長官、中国を非難…「地域の総意乱す」
読売新聞 5月28日(木)12時6分配信
【ワシントン=井上陽子】カーター米国防長官は27日、ハワイ州で行われた米太平洋軍の司令官交代式で演説し、南シナ海のスプラトリー(南沙)諸島で岩礁埋め立てや施設建設を進める中国の動きについて「中国は、国際規範や、力によらない紛争解決を求める地域の総意を乱している」と強く非難した。
>
そして、数ヵ月前には想像もできなかったことだが、「米中軍事衝突」を懸念する声が、あちこちで聞かれるようになった。
<
米中激突なら1週間で米軍が制圧 中国艦隊は魚雷の餌食 緊迫の南シナ海
夕刊フジ 5月28日(木)16時56分配信
南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島周辺の領有権をめぐり、米中両国間で緊張が走っている。
軍事力を背景に覇権拡大を進める習近平国家主席率いる中国を牽制するべく、米国のオバマ政権が同海域への米軍派遣を示唆したが、中国側は対抗措置も辞さない構えで偶発的な軍事衝突も排除できない状況だ。
>
「中国が、他国と領有権問題を抱える場所での埋め立てをやめないから米国が怒っているのだ」
というのは、「表向き」の理由に過ぎない。
なぜなら、この問題は以前から存在していたからだ。
中国が本格的に埋め立てを開始したのは、13年である。
そして14年5月、フィリピン政府は、ミャンマーで開かれたアセアン首脳会議の場でこの問題を提起し、中国に抗議した(フィリピンは、中国が埋め立てを進める場所は、「自国領」と主張している)。
つまり、この問題は、1年前には全世界の知るところとなっていた。
ところが、米国はごく最近まで、この問題を事実上「無視」「放置」していた。
米国が、急に中国の動きを大々的に非難しはじめたのは、「裏の理由」(=AIIB事件)があるからだろう。
■中ロ両方は敵に回せない!
突如ロシアとの和解に動き出した米国
前回の記事で筆者は、米国が中国にリベンジするにあたって、「ロシアと和解する可能性がある」
と書いた。
米国はこれまで、
「敵に勝つために、他の敵と組む」
ことを繰り返してきたからだ。
たとえば、米国は第2次大戦時、日本とナチスドイツに勝つために、「米帝打倒」を国是とするソ連と組んだ。
戦後は、敵だった日本とドイツ(西ドイツ)と組み、ソ連と対峙した。
1970年代にソ連の力が増してくると、米国は中国との和解に動いた。
こういう過去の行動を見れば、米国がロシアと組む可能性は否定できない。
誰がどう考えても、中国・ロシアを同時に敵に回すより、ロシアを味方につけて(少なくとも中立化させて)中国と戦うほうがいい。
では、「AIIB」後、米ロ関係にどんな変化が生じているのだろうか?
米国のケリー国務長官は5月12日、ロシアを「電撃」訪問した。
<
露訪問の米国務長官、ウクライナ停戦履行なら「制裁解除あり得る」
AFP=時事 5月13日(水)7時13分配信
【AFP=時事】米国のジョン・ケリー(John Kerry)国務長官は12日、ロシアを訪問し、ウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領とセルゲイ・ラブロフ(Sergei Lavrov)外相とそれぞれ4時間、合わせて8時間に及ぶ会談を行った。
その後ケリー氏は、ウクライナの不安定な停戦合意が完全に履行されるならばその時点で、欧米がロシアに科している制裁を解除することもあり得るという見解を示した。
>
引用部分は短いが、非常に重要な内容を含んでいる。
まず、ケリー(そして、ケリー級の政府高官)のロシア訪問は、「クリミア併合後」はじめてだった。
つまり、「ケリーが来た」こと自体が、ロシアにとっては「大事件」だった。
そして彼は、プーチンと4時間、ラブロフ外相と4時間、計8時間も会談している(テーマは、シリア、イラン、ウクライナ問題だったと発表されている)。
個人でも会社でもそうだが、仲良くしたくない相手とは、長く話さないものだ。
「長話」はつまり、米国側もロシア側も「仲直りしたい」という意思があるということだろう。
そして、ケリーは決定的なことをいった。
<
ケリー氏は、ウクライナの不安定な停戦合意が完全に履行されるならばその時点で、欧米がロシアに科している制裁を解除することもあり得るという見解を示した。
>
「制裁解除もあり得る!」
これも、「AIIB事件」前には、想像できなかった事態である。
ここには書かれていないが、ケリーはこの訪問中、「クリミア問題」を一度も口にしなかったという。
つまり
「クリミアのロシア領有権を認めることはできないが、『黙認』で『手打ち』にしたい」
ということではないだろうか?
このように米国は、ロシアとの和解に動いている。
理由は、中国との戦いに集中するためだろう(ちなみに、米国は、中東最大の仮想敵イランとの和解にも動き、イスラエルから激しく非難されている)。
■中国が日本に擦り寄る本音は
やはり「日米分断」
もう一つ、「AIIB」後の目に見える変化について触れておこう。
そう、中国が日本に「擦り寄ってきた」件だ。
習近平は5月23日、中国を訪問中の日本使節団の前に姿を現し、日本に「ラブコール」を送った。
<
「朋(とも)あり遠方より来る、また楽しからずや。
3000人余りの日本各界の方々が遠路はるばるいらっしゃり、友好交流大会を開催する運びになった。
われわれが大変喜びとするところだ」
習氏は23日夜、北京の人民大会堂で開かれた交流式典に突然姿を見せ、孔子の言葉を引用しながら笑顔であいさつした。
会場では二階氏とも面会し、安倍首相の親書を受け取り、
「戦略的互恵関係を進めていけば、日中関係はいい結果になると期待している。
安倍首相によろしく伝えてほしい」
と語った。
>(夕刊フジ 5月25日)
これは、なんだろうか?
これまで何度も書いてきたが、中国は、12年9月の「尖閣国有化」をうけて
「反日統一共同戦線戦略」
を作成した。
その骨子は、
1.:中国、ロシア、韓国で、「反日統一共同戦線」を作る。
2.:日本には、北方4島、竹島、そして「沖縄」の領有権もない。
3.:「反日統一共同戦線」には、「米国」も参加させる。
(驚愕の「対日戦略」の全貌はこちらの記事で詳しく解説している)。
この戦略に沿って中国は、全世界、特に米国で、「反日プロパガンダ」を大々的に展開してきた。
その効果は十分あり、13年12月26日に安倍総理が靖国を参拝すると、世界的「大バッシング」が起こった(小泉総理は、在任中6回参拝したが、騒いだのは中韓だけだった)。
中国の「日米分断作戦」は成功しつつあったが、「AIIB事件」と安倍総理の「希望の同盟」演説で、日米関係は逆に「とても良好」になってしまった。
では、今中国が日本に接近する理由はなんだろう?
実をいうと「日米分断戦略」は、今も変わっていない。
中国はこれまで「反日プロパガンダ」で、日米分断をはかってきたが、挫折した。
では、「日中友好」を進めるとどうなるのだろう?
実は、これも「日米分断」になる。
たとえば、日中関係は、民主党・鳩山−小沢時代にもっともよかった。
その時、日米関係は「最悪」だったのである。
日本政府は、「反日統一共同戦線」戦略を常に忘れず、
「中国が接近してくるのは『日米を分断するため』」
ということを、はっきり認識しておく必要がある。
■米国を信頼していいのか?
日本はどう動くべきなのか
今、よほど鈍感な人でないかぎり、「米中関係が急に悪化してきた」ことに気がついている。
そして、多くの「反米論者」は、日本が米国につくことに反対で、「米国はハシゴを外す!」と警告している。
彼らの主張は
「日本が米国を信じて中国と争っていると、米国は、突然中国と和解し、日本は単独で中国と戦うハメになり、ひどい目に遭う」
ということ。
要するに米国は
「日本と中国を戦わせ、自分だけ漁夫の利を得ようとする」
というのだ。
これは「まっとうな指摘」と言わざるを得ない。
われわれは、大国が「敵」と戦う戦略には、大きく2つあることを知っておく必要がある。
1.:バランシング(直接均衡)
…これは、たとえば米国自身が「主人公」になって、中国の脅威と戦うのである。
2.:バックパッシング(責任転嫁)
…これは、「他国と中国を戦わせる」のだ。
もっとわかりやすくいえば、「米国は、日本と中国を戦わせる」のだ。
そして、事実をいえば、どんな大国でも
「敵国と直接対決するより、他の国に戦わせたほうがいい(つまり、2のバックパッシングの方がいい)」
と考える。
リアリストの世界的権威ミアシャイマー・シカゴ大学教授は言う。
<事実、大国はバランシングよりも、バックパッシングの方を好む。
なぜなら責任転嫁の方が、一般的に国防を「安上がり」にできるからだ。>
(大国政治の悲劇 229p)
「米国が直接、中国と戦うより、日本に戦わせたほうが安上がり」。
ひどい話だが、これが世界の現実である。
そして、われわれは、「バックパッシング」の例を知っている。
たとえば、03年の「バラ革命」で、親米反ロ政権ができたジョージア(旧名グルジア)。
この小国は08年8月、ロシアと戦争し、大敗した。
そして、「アプハジア」「南オセチア」、2つの自治体を事実上失った(ロシアは、この2自治体を「独立国家」と承認した)。
もう1つの例は、ウクライナである。
14年2月の革命で、親ロシア・ヤヌコビッチ政権が打倒され誕生した、親欧米・反ロ新政権。
オバマ大統領は最近、CNNのインタビューで、ウクライナ革命が「米国の仲介で実現した」ことを認めた(その映像は、ここで見ることができる)。
つまり、ウクライナは、米国に利用され、ロシアと戦うハメになったのだ。
結果、ポロシェンコ政権はクリミアだけでなく、ドネツク州、ルガンスク州も事実上失ってしまった。
これらの例から、日本は「米国に利用されること」には、常に敏感であるべきだ。
では、日本はどうふるまうべきなのか?「大原則」は2つである。
1.:日本は、安倍総理の「米議会演説」路線で、ますます米国との関係を強化していくべきである。
結局、日米同盟が強固であれば、中国は尖閣・沖縄を奪えないのだから。
2.:しかし、中国を挑発したり、過度の批判はしない。
これは「バックパッシング」、つまり米国にハシゴを外され、(米国抜きの)「日中戦争」になるのを防ぐためである。
中国を批判する際は、「米国の言葉を繰り返す」程度にとどめよう。
日本は、米国に利用されたグルジアやウクライナ、中国に利用されている韓国のような立場に陥ってはならない。
日本が目指すのは、あくまで「米国を中心とする中国包囲網」の形成である。
だから、米国が先頭に立って中国の「南シナ海埋め立て」を非難している現状は、日本にとって、とても良いのだ(もちろん、油断は禁物だが)。
』
『
ダイヤモンド・オンライン 2015年4月28日 北野幸伯 [国際関係アナリスト]
http://diamond.jp/articles/-/70786
AIIBで中国に追いつめられた米国の逆襲
アジアインフラ投資銀行(AIIB)事件が、世界に大きな衝撃を与えている。
加盟国は57ヵ国。
米国と緊密なはずの英国、イスラエル、オーストラリアなども参加国だ。
米国は、いかに逆襲するのだろうか?
■AIIB事件の本質とは?
「覇権国家」米国の凋落
習近平が2013年10月、APEC首脳会議で設立を提唱したAIIB。
当初は、東アジア、東南アジア諸国が参加するだけの小規模なものになると見られていた。
しかし、ふたを開けてみると、加盟国は57ヵ国。
そして、参加国の中には、米国と緊密なはずの、英国、イスラエル、オーストラリアなどが、「米国の不参加要求」を「無視して」参加を決めた。
世界的に孤立し、追いつめられた落ち目の覇権国家・米国は、いかに逆襲するのか?
今回は、この重要問題を考えてみよう。
米国の「逆襲方法」の前に、「AIIB事件の本質」について触れておこう。
この事件の本質は、
「同盟国が米国の言うことを聞かなかったこと」
である。
これは、それほど重要なことだろうか?
米国は、「覇権国家」だ。少なくとも、今まではそうだった。ところで、「覇権」とはなんだろう?辞書を見ると、「覇者としての権力。力をもってする支配力」とある。要するに「支配している国」ということである。
しかし、覇権国家とはいえ、他国を直接統治しているわけではない。
国連には、加盟国が193ヵ国あり、それぞれの国が、「独立した政治を行っている」(という建前である)。
では、「覇権国家が覇権国家であること」は、なぜわかるのか?
ポイントは、「覇権国家の言うことを他国が聞くかどうか?」である。
なぜ日本は、「米国の属国」と言われるのか?
日本政府が、米国の言うことを聞くからだ。
政府が「国益」を最優先に考え、米国の言うことを聞いたり聞かなかったりすれば、日本は「属国」ではなく、「自立国家」と呼ばれるだろう。
では、覇権国家の影響下にある国々が、言うことを聞かなくなったらどうなるのだろう。
答えは、「覇権国家は、覇権国家でなくなる」だ。
■かつてのソ連に見る覇権国家没落の例
ソ連はかつて、「共産主義陣営」の「覇権国家」だった。
しかし、1980年代後半、ソ連経済は深刻な経済危機に陥った。
そして、ゴルバチョフの「ソフト路線」もあり、支配下にあった東欧諸国は、もはやソ連を恐れなくなった。
その時、何が起こったのか?
89年、東西ドイツを隔てていた「ベルリンの壁」が崩壊。
続いて、東欧で「民主革命」がドミノ式に起こった。
そして、ソ連は「覇権国家」としての地位を失った。
そればかりでなく、15の国々に分裂してしまった。
これは、他国が言うことを聞かなくなり、覇権国が没落した分かりやすい例である。
このことを踏まえて「AIIB事件」について考えてみよう。
米国は、同盟国群に、「中国が主導するAIIBに参加しないよう」要請(命令)していた。
ところが、英国は3月12日、G7諸国ではじめて参加を表明。
これに、ドイツ、フランス、イタリア、スイス、ルクセンブルグ、オーストラリア、韓国などが続いた。
これらの国々は、「米国の言うことを聞かなかった」。
つまり、米国の覇権(支配)を拒否したのだ。
これは、
「米国が覇権を喪失した象徴的事件」として、歴史に記憶される
はずである。
そして、米国の要求を無視した国々は、逆に中国の言うことを聞いた。
今回の一件だけで「中国が覇権国家になった」と考えるのは早計過ぎる。
しかし、「覇権に一歩近づいた」とは言えるだろう。
では、同盟国たちは、なぜ米国を裏切ったのだろうか?
理由は、二つ考えられる。
一つは、「AIIBに入ったほうが儲かりそうだ」と判断した。
二つ目は、「逆らっても、オバマ米国は何もできないだろう」
と判断した。
特に理由二つ目は、「ソ連末期の状況に非常によく似ている」といえる。
では、「AIIB事件後」、中国は一直線で「覇権国家」になれるのだろうか?
米国は、このまま衰退しつづけ、中国に覇権を「禅譲」するのだろうか?
もちろん、米国は、黙って覇権を譲ったりしないだろう。
江戸幕府最後の将軍・徳川慶喜、ソ連最初で最後の大統領ゴルバチョフのように、覇権を放り出した例も歴史にはある。
しかし、米国は、まだそこまで落ちぶれてはいない。
米国は、どうやって中国に逆襲するのか?
おそらく、「AIIB後」の戦略は、「現在検討中」だろう。
たとえ、もう出来上がっていたとしても、公開されるとは考えにくい。
では、我々は米国が今後どう動くか知ることはできないのだろうか?
そうでもない。
米国の過去の行動を知ることで、ある程度未来の動きを予測できる。
■反中プロパガンダ(情報戦)と民主化支援で
米国は中国に逆襲をする
「情報戦」は、米国がもっとも得意とする分野である。
米国がその気になれば、安倍総理を「軍国主義者」にすることも、プーチンを「ヒトラーの再来」にすることもできる。
中国は、経済力(GDP)、軍事力(軍事費)で、世界1位の米国を猛追している。
しかし、「情報力」(プロパガンダ力)は、今も米国が圧倒的強さを誇っている。
そして、今後も中国が勝つのは難しそうだ。
なぜかというと、中国は、共産党の一党独裁国家であり、普通選挙もなければ、言論・信教・結社の自由もない。
世界の誰もが認める「人権侵害国家」でもある。
米国は、国益によって、中国の異質性を強調したり、しなかったりする。
しかし、今後は、中国の「自由のなさ」「人権侵害」などを積極的にプロパガンダするようになるだろう。
もう一つ、米国は、「反米的な国」での「民主化運動」を支援している。
これは、「陰謀論」に思えるが、事実である。
たとえば、03年にクーデターで失脚したジョージア(旧名グルジア)のシェワルナゼ大統領(当時)は、以下のように断言している。
(朝日新聞03年11月29日)
<
「混乱の背景に外国情報機関」 シェワルナゼ前大統領と会見
野党勢力の大規模デモで辞任に追い込まれたグルジアのシェワルナゼ前大統領は28日、首都トビリシ市内の私邸で朝日新聞記者らと会見した。
大統領は混乱の背景に外国の情報機関がからんでいたとの見方を示し、グルジア情勢が不安定化を増すことに懸念を表明した。
前大統領は、議会選挙で政府側による不正があったとする野党の抗議行動や混乱がここまで拡大するとは「全く予測しなかった」と語った。
抗議行動が3週間で全国規模に広がった理由として、
「外国の情報機関が私の退陣を周到に画策し、野党勢力を支援したからだ」
と述べた。
>
さらに05年のクーデターで失脚したキルギスのアカエフ大統領(当時)も、こう語っている。
<
「政変では米国の機関が重要な役割を果たした。
半年前から米国の主導で『チューリップ革命』が周到に準備されていた」
>(時事通信05年4月7日)
<
「彼らは野党勢力を訓練・支援し、旧ユーゴスラビア、グルジア、ウクライナに続く革命を画策した」
>(同上)
ちなみに、14年2月にウクライナで起こった革命。
これについても、オバマ自身が、米国の関与を認めている。
<
昨年2月ウクライナの首都キエフで起きたクーデターの内幕について、オバマ大統領がついに真実を口にした。
恐らく、もう恥じる事は何もないと考える時期が来たのだろう。
CNNのインタビューの中で、オバマ大統領は
「米国は、ウクライナにおける権力の移行をやり遂げた」
と認めた。
>
(ロシアの声 2015年2月3日)
これらの事実から考えると、米国が中国における「民主化運動支援」を強化する可能性は強いと思われる。
昨年秋、香港の「反政府デモ」が大きな話題になった。
これからは、香港だけでなく、チベットやウイグルでも「反中国政府運動」が活発化していくだろう。
■「中国経済崩壊論」の拡散でAIIBつぶしに乗り出すか
「中国経済崩壊論」の拡散も、米国が今後、取るであろう戦略だ。
これは「経済戦」の一環である(情報戦でもある)。
米国は現在、日本と欧州を巻き込み、「対ロシア経済制裁」をしている。
しかし、ロシアと違い、世界第2の経済大国・中国に経済制裁を課すことは、困難だろう。
そもそも、「AIIBをつくったから制裁する」とはいえない。
他の理由で中国を経済制裁しようにも、欧州が「制裁はイヤだ!」といえば、またもや米国の権威は失墜する。
では、どうするのか?
「中国経済の崩壊は近いですよ」という噂を広める
のだ。
実をいうと、これは完全な「噂」でもない。
実際、中国のGDP成長率は、年々下がっている。
賃金水準が上がり、外国企業がどんどん東南アジアなどに逃げ出している。
だから、米国が「中国経済の崩壊は近い」とプロパガンダしても、必ずしもウソとはいえない。
事実、最近「中国崩壊説」をよく見かけるようになった。
たとえば、ゴールドマン・サックスの元共同経営者ロイ・スミス氏は3月2日、
「中国経済の現状は1980年代の日本と似ている点が多い」
「日本と同様、バブル崩壊に見舞われるだろう」
と述べた。
さらに、かつては親中派だったデヴィッド・シャンボー(ジョージ・ワシントン大学教授)は3月6日、「ウォール・ストリート・ジャーナル」に、
「終焉に向かいはじめた中国共産党」
を寄稿して、中国政府を激怒させた。
「中国経済を破壊すること」。
これは、米国の覇権を守る上で決定的に重要である。
なぜなら、米国の同盟国たちが、AIIBに参加したのは「儲かる」と判断したからだ。
しかし、中国経済が破綻したら、儲からなくなってAIIBは魅力を失うだろう。
さらに、経済がダメになれば、共産党の正統性は失われる。
そもそも中国共産党は、選挙によって選ばれたわけではなく、なんの正統性もない。
それで、毛沢東時代は、「恐怖」によって支配をしていた。
鄧小平の時代からは、
「共産党のおかげで経済成長ができる神話」
を、一党独裁の正統性にした。
だから、経済成長がストップすれば、中国共産党政権の正統性は消え、ソ連のように体制が崩壊する可能性が強まる。
そして、ソ連のようになった中国が米国の覇権に挑むのは、しばらく無理だろう。
もちろん、中国経済の破綻は、世界経済へのダメージが大きく、米国も無傷ではいられない。
しかし、「背に腹はかえられない」のだ。
■最後の“切り札”はロシアとの和解!?
米国大物リアリストたちの主張
最後に、米国が中国に勝つために「ロシアと和解する可能性」について触れておこう。
「そんなバカな!」
「モスクワ在住筆者の妄想だ!」――。
恐らくそんな反応が返ってくるだろう。
しかし、歴史は、
「米国は勝利するためなら敵とも組む」
ことを教えている。
たとえば第2次大戦時、米国は、「資本主義打倒」「米帝打倒」を国是とするソ連と組み、ナチス・ドイツ、日本と戦った。
そして、冷戦がはじまると、米国はかつて敵だった日本、ドイツ(西ドイツ)と組んだ。
さらに、米国は70年代、ソ連に勝つために中国と和解している。
こう見ると、米国が現在の敵・ロシアと組んでも、まったくおかしくはない。
ニクソンは、ソ連に勝つために、中国と組んだ。
今度は、中国に勝つために、ロシアと組む。
実をいうと、これを主張しているのは、筆者ではない。
日本ではあまり報じられていないが、大物リアリストたち、たとえばヘンリー・キッシンジャー、ジョン・ミアシャイマー(シカゴ大学)、スティーブン・ウォルト(ハーバード大学)などが、
「米国はロシアと和解すべき」
と主張している(親中派として知られたキッシンジャーやズビグニュー・ブレジンスキーは、中国の本性を知り、親中派を「卒業」したという)。
理由は簡単で、
「米国とロシアが戦えば、得をするのは中国だから」
だ。
そして、「AIIB事件」で明らかになったように、中国は今、世界でもっとも(正確にいえば米国に次いで)「覇権」に近いところにいる。
米ロが戦って、「中国に覇権をプレゼントするのは愚かだ」というわけだ。
さらに、米国一の「戦略家」エドワード・ルトワックは、その著書「自滅する中国」の中で、「ロシアを中国包囲網に入れる重要性」を繰り返し説いている。
また、ルトワックは、日本が独立を維持できるか、それとも中国の属国になるかどうかについて、以下のように述べている。
<
もちろん日本自身の決意とアメリカからの支持が最も重要な要素になるのだが、
ロシアがそこに参加してくれるのかどうかという点も極めて重要であり、
むしろそれが決定的なものになる可能性がある。
>(188p)
ルトワックが主張するように、ロシアを米国側に引き入れることができれば、米国の勝利は確実だろう。
しかし、米政府が、「わが国は中ロを同時に敵にしても勝てる」と過信すれば見通しは暗い。
とはいえ、米国の動向にかかわらず、中国の経済的栄華は終わりつつあるので、中国が覇権国家になれるわけではない。
結局、世界は、覇権国家不在の「多極化」「無極化」時代に向かっているように見える。
』
【中国の盛流と陰り】