2015年8月30日日曜日

中国経済はソフトランディングできるのか?(1):中共テクノクラートも日本同様、経済後退で無能

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●中国経済はソフトランディングできるのか
2015/08/28 に公開
出演者:
内田和人(三菱東京UFJ銀行執行役員)
早川英男(元日本銀行理事、富士通総研エグゼクティブ・フェロー)
司会者:工藤泰志(言論NPO代表)


2015年8月30日 7時0分 工藤泰志 | 言論NPO代表
http://bylines.news.yahoo.co.jp/kudoyasushi/20150830-00048964/

中国経済はソフトランディングできるのか

■中国経済のソフトランディングは、世界、日本のために不可欠

 中国経済の現状や先行きに厳しい見方が広がる中、8月20日収録の言論スタジオでは、三菱東京UFJ銀行執行役員の内田和人氏と、元日本銀行理事で、富士通総研エグゼクティブ・フェローの早川英男氏をお迎えして、人民元の切り下げを契機とした世界的株安の背景、中国経済の先行きについて議論が行われました。

 議論では、今回の人民元切り下げが、資源国やアメリカをはじめとして世界に大きな影響を及ぼすことが明らかになるとともに、切り下げの背景にある中国経済の減速についても議論がなされました。
 また、中国がこれまでの過剰投資主導の経済から、消費主導の経済への移行を構造的な課題としているものの、対応に苦慮している現状が浮き彫りとなりましたが、中国経済のソフトランディングは、世界、さらには日本にとっても不可欠であるとの認識で、両氏の見解は一致しました。
世界に波及する今回の切り下げの影響

 まず、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志が、相次ぐ人民元の切り下げの背景について尋ねると、内田氏は、「2つの目的が背景にある」と指摘しました。
 内田氏によると、まず「景気減速、特に輸出が大きく下振れしているため、為替面からの手当てを実施し、側面支援する必要があった」と述べました。
 内田氏はもう一点として、
 「中国は、今年の秋にIMFが行うSDR(特別引出権)の構成通貨の見直しにおいて、中国の人民元を採用させ、『人民元の国際化』を目標としている。
 しかし、IMFからは『SDRの採用基準に達していない』というコメントが8月上旬に出されたため、この切り下げを『管理フロートの為替制度を、市場連動型に切り替えるキャンペーンにする』という意図があったのではないか」と分析しました。

内田氏はさらに、人民元が「今後、1割程度の調整、すなわち、1ドル=6.11元だったものが、1ドル=6.7~6.8元くらいに調整される」との市場関係者の予測を紹介した上で、「為替の切り下げは中国のデフレを世界に拡散していくことでもあり、資源価格や資源国への影響は極めて大きい」と指摘し、さらに、こうした人民元の切り下げを、対中国の貿易赤字に悩むアメリカが容認するのか、と今後の影響を整理しました。

 早川氏は、元々がやや過大評価であった人民元を、実勢に合わせたという側面もあり、切り下げ自体にインパクトはないとしつつも、その背景には中国経済の減速や、その引き下げ方に問題があるとの見方を示しました。
 特に、今回の切り下げが「ややパニック的」に行われているため、市場が「そこまで悪いのか」と受け止め、大きな反応を招いていると解説しました。

 早川氏は、アメリカとIMFとの関係については、
 「IMFから見ると『中国全体の黒字は減っている。
 アメリカの通貨という、世界で一番強い通貨に対してペッグしていたため、これまでは中国元は非常に高くなっていたので、それを下げるのは別におかしなことではない』という理解なのだろうが、アメリカから見ると対中国の貿易赤字は過去最大で『そうではない』という話になる」
と解説しました。
 ただ、内田氏が紹介した「1割程度の調整」という見方に対しては、
 「中国はおそらくアメリカのことを意識するので、10%の切り下げまではしないだろう。
 景気の下支えであれば、インフラ投資の拡大などの手を使うはず」
と語りました。

 さらに早川氏は、9月に予定されているアメリカの利上げの影響については、
 「今まで外貨が入ってきていた新興国から資金が抜け出していくことになる。
 特に、ファンダメンタルズ(経済の基礎的状況)が弱い国ほど影響が出やすい」
と説明しました。

■日本への影響も不可避

 次に、工藤が
 「今回の人民元切り下げが日本経済にどのような影響を与えるのか」
と尋ねると、内田氏は、中国人観光客によるいわゆる「爆買い」など消費に関する影響は軽微としつつ、
 「7月の貿易統計では、輸送機械などの輸出がかなり急減しているが、これからさらに、中国向けの輸出に影響が出てくる可能性がある」
と述べると、早川氏も、
 「人民元自身の影響はそれほど大きくない。やはり、問題なのは、中国経済の減速で、その結果として日本の輸出も落ちている」
と語りました。

■消費主導社会への移行に苦戦する中国

 これまでの議論を受けて工藤が、
 「中国経済の現状をきちんと見る必要があるが、(政府が目標とする)7%成長も困難になっている。
 現状はどうなっているのか」
と問いかけると、早川氏は、成長率が下がること自体は問題ではなく、
 「これまでの10%成長時代の、過度に投資や輸出に依存した経済から、個人消費やサービスのウエイトがより高い経済に移行していく」
ことが、これからの目標となると述べました。
 しかし早川氏は、
 「問題なのは、リーマンショックの後に4兆元の景気対策をやった結果、過剰設備や不動産バブル、地方政府の過剰債務をつくり出してしまったこと」
が、
 「消費主導の経済への移行を難しくしており、政府も対応に苦慮している」
 「インフラ投資を増やすなどのいろいろな手が打てるので、いきなり経済を支えられなくなることはないが、それをすれば、本来の目的であった安定的な中成長を実現する個人投資主導の経済にはつながず、本来の構造調整を先送りすることになる」
などと解説しました。

 これを受け、内田氏も早川氏と同様の見方を示しつつ、
 「過剰投資の裏側には過剰貯蓄があり、その余った貯蓄が不動産や株式など、さまざまなところでバブルを引き起こしているので、過剰投資と過剰貯蓄の問題をいかに軟着陸させるか」
を中国経済の課題として指摘しました。
 その上で、
 「唯一ポジティブに捉えられる点は、中国はまだ完全な開放経済ではないので、中国自身がコントロールできる余地が非常に大きい。
 これにより軟着陸できる可能性はある」
と語りました。

 これに対し早川氏は、
 「1990年代の後半に、国有企業問題が起こったが、かなり大胆なメスを入れることによって切り抜けた経験があるなど、中国の対応力は高い」
としつつも、
 「近年はその対応力が鈍く、特に株暴落への対応はあまりにも稚拙だ」
と、これからソフトランディングをしていく上での懸念を示しました。

 次に、工藤が、
 「中国は構造改革を迫られ、過去の膨大なつけをなかなか処理できないでいるが、アジアインフラ投資銀行(AIIB)に象徴されるように、大掛かりなインフラ戦略を絡めながら「中国の夢」を推進しているようにも見える。
 これらの動きはどう整理できるか」
と尋ねると、早川氏は、AIIBと構造改革はリンクしていると指摘しました。
 早川氏はその中で、
 「中国は鉄鋼にしてもセメントにしても、莫大な過剰設備を持っている。
 そこで、余っている外貨準備を使って途上国に融資し、インフラ投資をやってもらい、中国の余っている鉄やセメントなどを売り込む。
 これで政治的な影響力を増す一方で、中国が無駄にしている外貨準備、そして余っている過剰設備を稼働させることになり、すべてがうまくいくことにつながる」
と解説しました。
 もっとも早川氏は、
 「これが根本のところで、本当に安定的な中成長、とりわけ個人消費を中心とした経済への移行につながるかは目途が立っているわけではない」
と留保を付けました。

■中国のソフトランディングは世界、そして日本のためにも不可欠

 工藤から、中国経済のソフトランディングへの見通しを問われた内田氏は、
 「できるかできないか、ではなくやってもらうしかない。
 中国がソフトランディングできないことは、世界経済のみならず安全保障などさまざまな分野に影響が出てくる。
 世界としても、中国のソフトランディングを後押しするような政策や支援を行っていく必要がある」、
 早川氏も「中国がより消費主導型の経済になれば、日本からも見ても貿易、投資など、お互いに依存できる部分は大きい。
 中国は、ネット関係の企業が力をつけてきていて、日本の企業と比べてもイノベーティブだ。
 消費主導経済に移ったときに活躍できるようなシーズはもう育ってきているので、日本との間でもお互いにうまくやっていける余地は広がってくる」
と述べ、日本の視点からも中国のソフトランディングは不可欠であると主張しました。

 最後に、日中経済という観点から内田氏は、
 「日中経済のつながりはどんどん強くなっている。
 また、これから高齢化やさまざまな構造問題に立ち向かっていく中で、どうしてもアジアの経済圏をきちんと整備しておく必要があり、そういう意味で、中国やさらには韓国の重要性が極めて強い。
 日中韓のFTAができればTPPよりも大きな経済圏になるので、TPP以降は日中韓FTAも想定しながら、日本経済がいかにアジアを中心とした世界経済にビルドインされていって、その中で日本経済や日本製品の競争力を見直し、サービスのファンになってもらうのか、というようなストーリーを描くことが極めて重要だ」
と主張しました。

工藤泰志:
東洋経済新報社で、『論争東洋経済』編集長などを歴任。2001年10月、中立・独立した非営利のシンクタンク「言論NPO」を立ち上げ、代表に就任。選挙時のマニフェスト評価や政権の実績評価の実施をはじめ、様々な政策議論やフォーラム等を開催。12年3月、米国・外交問題評議会が設立した国際シンクタンク会議の日本代表に選出。同年11月、日本の政策論調を世界に発信する「DiscussJapan」編集長に就任。



2015年8月30日 7時0分 団藤保晴 | ネットジャーナリスト、元新聞記者
http://bylines.news.yahoo.co.jp/dandoyasuharu/20150830-00048977/

中共テクノクラートも日本同様、経済後退で無能

 中国株式の暴落に続く人民元の切り下げ騒動で中国指導部の経済運営への信頼感が一挙に崩壊しました。
 日本のバブル崩壊の轍は踏まないと言ってきた中共テクノクラートが経済後退局面では日本の官僚同様に無能でした。
 前兆は2013年に顕在化した深刻な大気汚染騒ぎにあったと見ます。
 いま世界陸上競技大会が開かれ、間もなく国威発揚の軍事パレードがある北京の空は青く晴れ上がっているとニュースになっていますが、
 このために北京と周辺の6省市で1万の工場と4万の建設現場が操業停止になったと伝えられています。
 システム的に誘導するのではなく、場当たりの強権発動でしか事態を動かせない体質を象徴しています。
 日本の官僚も右肩上がりの時代には経済の各種調節弁を巧みに使って優秀だったものですが、いま必要なのは調節ではなく改革です。

 中国経済は明らかに減速しているのに政府発表のGDP成長率は7%維持です。

 日経新聞の《中国経済の行方(中)》が経済実態との乖離をこう指摘します。
>>>>>>>
《 李首相がかつて注目していると発言した
 銀行融資残高、
 電力消費量、
 鉄道貨物輸送量
をもとに、「李克強指数」が作成されている。
 同指数ではこの3つの指標のウエートは電力消費量が40%、鉄道貨物輸送量が25%、銀行融資残高が35%になっている。
 15年上期(1~6月)の同指数の伸び率は2%台に下落している(図参照)。
 個別にみると、
★.銀行融資残高は14%前後伸びているが、
★.電力消費量の伸び率は1.3%しかなく、
★.鉄道貨物輸送量はマイナス10%程度と大きく落ち込んでいる 》
<<<<<<<

 電力消費量はGDP2桁成長時代には前年同月比で10%以上増加が当たり前でしたが、今年に入ってマイナスになる月が増えています。
 製造業から三次産業への比重移動があるにせよ、電気消費が落ちるのは異様です。
 低成長どころかマイナス成長に落ち込んだのではないかとまで疑われる要因です。
 詳しいグラフが《中国経済の減速と電力消費量・鉄道貨物輸送量の推移》で提供されています
(注:後述)。

 大気汚染騒ぎの始まりで国民的な関心を呼んだ米国大使館によるPM2.5濃度測定公表に対し、中国政府の立場は「迷惑な活動」でした。
 資源の超浪費型経済成長への危機感がなく、世界の石炭消費の半分を中国が占める恐ろしさを知らず、むしろ誇っていました。
 2014年の第412回「中国重篤スモッグの巨大さが分かる衛星写真」で論じたように、ドライブできないほど事態は重篤化しました。



 思うままの制御が効かないのは大気汚染など環境問題だけではなく、株式市場や為替市場も同じと知らない中国指導部は第492回「中国の妄想、市場の美味しい所だけ取り逃げ」で指摘した「食い逃げ」の愚行に出ました。

 ロイターの《アングル:元切り下げの影響に驚く中国当局、相場安定図る意向》が狼狽ぶりを報じています。
>>>>>>>>
《 代表的な政府系シンクタンクの有力エコノミストは、政策担当者は人民元切り下げが世界経済に及ぼす影響を過小評価していたと説明する。
 李克強首相と先月、政策について協議したというこのエコノミストは「経済が減速し株価が急落したタイミングを選んでしまったため、切り下げを通じた景気テコ入れを狙っているとの間違ったシグナルを諸外国に送り、切り下げ競争を招いてしまった」と明かし、「そういうわけでわれわれは守りの姿勢に入った」と続けた 
<<<<<<<

 中国網の《中国経済は「ジャパン・シンドローム」をどう回避するか=北京大学国家発展研究院院長》は
★.内陸部の発展はこれからで「中国の経済成長に大きな潜在力がある」
との立場です。
 可能性があるとしても賃金上昇などで生産コストが既に米国並みに高くなってしまった中国に新たな投資が来るのか、疑問大です。
 逆に
★.人民元切り下げで資本流出が想像以上に大きくなり、
 人民元相場を買い支えているのが実情
です。

 第481回「中国の夢、技術強国化は構造的に阻まれている」で指摘した発展阻害要因にもお気付きでないと見えます。

団藤保晴 ネットジャーナリスト、元新聞記者
玉石混淆のネットから玉を見つける水先案内人――新聞記者をしていた1997年、インターネット隆盛期に「INTERNET WATCH」で連載コラム「インターネットで読み解く!」を始め、ネットジャーナリストとして活動。科学技術、政治、経済、社会、文化など幅広い取材経験をベースに、ネット上の知的資源を検索の駆使で結び合わせ、社会的意味を明かします。膨大化するネットと劣勢にあるメディアの相克もテーマです。



中国経済の減速と電力消費・鉄道貨物輸送量
http://members3.jcom.home.ne.jp/tanakayuzo/chinaelect/newpage10.html

 前編:中国経済の減速と電力消費量・鉄道貨物輸送量の推移 (2012年11月21日)
                       (2013年2月~2015年7月の最新データを追加、更新 )

1.電力消費の推移

 中国政府が発表する経済指標は、多くの人から疑念を持って見られているようです。
 温家宝首相の後継の李克強氏は、嘗て、経済成長を評価する際にGDPではなく、電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資の実行という3つの統計を重視すると語ったとウィキリークスで暴露されました。

 中国経済に関する統計データの中では、発電電力量が比較的信頼されているように思います。
 発電電力量は輸出入がほとんど無く、送配電損失を差し引けば、電力消費量と時間遅れなくほぼ等しくなります。
 集計上の大きな間違いがなければ、経済状況をよく反映するデータであると考えます。

 中国の国家統計局のデータベースで、2005年からの月間の発電電力量の推移を調べてみました。
 統計データは、多くの国で自国語とともに英語のウェブページが用意されており、容易に調べることができます。



データベースには、当月の電力量、その年の累計電力量、それらの対前年同月比増減が掲載されています。
 なお、電力量は発電端の値と思われます。
 累計電力量の掲載値と、各月の電力量の合計には少し違があります。
 また、対前年同月比の増減については、国家統計局データベースの掲載値と、前年同月の値から求めた計算前年比を示しました。
 両者には違いがあります。
 国家統計局のデータは、所定の規模以上の工業企業から提出された当月データを合計したものです。
 その際、それらの工業企業(毎年見直される)に、前年同月のデータも併せて提出させており、両者の比率が増減値になっていると注記されています。
 そのために、計算前年比とは異なることになるようです。

 一、二月の電力量が減少しているのは、春節(旧正月)の影響と思われます。
 旧暦に基づく春節は一月の年もあれば、二月の年もあります。
 そのため、一、二月の対前年同月比は大きく振れた値となります。
 そのため、対前年同月比については、一月と二月の2ヶ月間の合計について増減を示しました。

 図-1は、中国の月間発電電力量の推移です。月ごとの変動はありますが、全体的には、ほぼ直線的に増加しているように見えます。
 2005年からの7年半で、発電電力量は2倍以上になっています。
 2012年には、月間電力量が4000億kWh前後ですから、年間では5兆kWh程度になります。
 日本の年間の発電電力量は1兆kWh前後ですから、日本の約5倍です。
 中国は経済成長を維持するために、エネルギーの確保が重要な課題になっていることが窺われます。
 現状は石炭火力が中心ですが、今後は原子力が増加するものと思われます。



  図-2に、月間発電電力量の対前年同月比の増減を示しました。
 国家統計局のデータベースの掲載値と、前年の電力量から計算した値を併記しました。
 -10%近くまでの電力量増加の大きな落ち込みは、2008年9月のリーマンショックに依るものです。
 それまでは、対前年同月比で15%前後の増加が続いていました。

 リーマンショックの後、中国政府は4兆元という大規模な財政出動を行ったことで景気が回復し、電力量の増加率も急速に増大しています。
 しかし、4兆元の効果もその後薄らいできたと言われ、ユーロ危機による欧州向輸出の減少などが加わったことで、2011年後半頃から電力量の増加率は急速に低下していることが分かります。
 2012年4月以降の半年間、対前年同月比の電力量の増加は3%以下の水準と低迷していましたが、10月以降回復していることが分かります。
 しかし、2013年に入り、対前年同月比の増加率は再び低下していることが分かります。
 2013年7月、8月の対前年同月比の電力量の増加は、各々8.1%、13.4%で、6月の6%に比べかなり増加しています。9月8.2%でした。



 このウェブページは、中国の経済指標の推移を見る時に、併せて電力量や鉄道貨物輸送量を、参考に対比してもらう趣旨で用意したものです。
 中国経済の現状について紹介することは目的ではありませんが、サンプルとして、図-3に中国の実質GDPの対前年比の成長率を示しました。
 なお、国家統計局のデータベースには、四半期ごとのデータが掲載されていますが、年初からのGDPの対前年同期比の成長率であるため、表-1に示しました。



 2012年10月の時点では、中国経済への回復期待から、GDPの発表に高い関心が寄せられていました。
 しかし、2012年第3四半期の対前年同期比のGDPの成長率は7.4%、1月から9月までのGDPの成長率では7.7%で、前期より低いものでした。

  同発表には、2011年以降の四半期ごとのGDP成長率の資料もあり、図-4に、電力量の増加率と対比して示しました。


 図-4には、その後のデータも追加していますが、2012年10月以降、電力量の増加率が上昇し、第4四半期のGDPの対前年同期比の成長率も7.9%となり、中国経済の回復が窺われました。
 
 しかし、2013年1月以降、電力量の増加率の低下は明瞭になり、2013年第1四半期、第2四半期のGDPの成長率は、それぞれ7.7%、7.5 %と再び低下しています。
 なお、電力消費は6月以降、顕著な増加傾向を示しています。

 図-2と図-3に示されるように、2007年頃には電力量の増加率は15%前後、GDPの成長率は14%くらいでした。
 しかし、リーマンショックの際には、電力量の増加率がマイナスにまで落ち込んだのに対し、GDPの成長率はそれ程は大きく変化していません。
 また、図-4に示される2012年半ばの状況は、電力量の増加率の低下に比べて、GDPの成長率の低下は緩やかです。
 電力量の増加率が3%以下であるのに対し、GDPの成長率は7%台までしか低下していません。
 この辺が、中国政府が発表するGDPに疑念が持たれる所以であると思います。

 中国のGDPに疑念があると決め付けることはできないと思いますが、工業生産活動の変化を知るデータとしては、GDPよりも電力量のほうが明瞭な情報を提供していると言えるでしょう。


2.鉄道貨物輸送量の推移 (2012年10月30日追加)

 鉄道貨物輸送量の推移のデータを紹介します。中国の貨物輸送量の統計は、鉄道輸送、ハイウェイ(トラック輸送)、水上輸送および民間航空の4つで示されています。
 図-5に、2011年のtonベースとton-kmベースのデータを示しました。



 tonベースで最も多いのはハイウェイ輸送で、鉄道輸送は、全体の11%に過ぎません。鉄道輸送や水上輸送は、長距離輸送のウェイトが高いようです。

 李克強首相の言は、鉄道輸送は貨物輸送量の一部に過ぎないが、統計データとして信用できるとの趣旨であると思います。人口の総数ですら疑念を持たれる大国で、ハイウェイ貨物輸送量を毎月どのようにして把握しているかについては、少し疑問を抱かざるをえません。
 
 図-6には、航空輸送を除く3者の貨物輸送量の推移を示しました。ハイウェイ輸送は輸送量が多いだけでなく、増加率も一番高くなっています。


2005年からの7年半で、ハイウェイ輸送が2.7倍くらいに増加しているのに対し、鉄道輸送は約1.5倍です。
  データベースで鉄道輸送以外は、12月分は当月分の輸送量の記載が無く、年間の累計のみが示されています。その年の統計誤差を12月分で調整しているものと思われ、図-6では12月分はブランクとしました。また、対前年同月比ついては、発電電力量と同様の理由で、1月と2月の合計について、対前年同月比を示しました。



 図-7には、月間の鉄道貨物輸送量の推移を拡大して示しました。この図からも、リーマン・ショック後と、最近になって、鉄道貨物輸送量が落ち込んでいることが分かると思います。

 図-8には、鉄道輸送と輸送合計について、月間貨物輸送量の対前年同月比の増減を示しました。



  鉄道貨物輸送では、図-2の発電電力量と同様に、リーマン・ショックによる大きな落ち込みが見られます。
 発電電力量と類似の軌跡を描き、前年同月比で共に-10%まで低下しています。
 時期的には、鉄道輸送量のほうが1ヶ月ぐらい遅れているようです。
 2012年5月から増加率の急激な低下が始まっています。
 8月には、リーマン・ショック時と同程度のマイナス水準まで低下しており、景気減速の深刻さが窺われます。
 9月には少し回復していますが、前年同月の値を下回っています。
 12月は前年同月比で僅かに増加となりましたが、2013年1-2月の増加率はゼロ、3月は再びマイナス、4月、5月は更に低下しています。
 鉄道貨物輸送量は2013年1月以降の経済成長の減速を示しています。
 6月の前年同月比の貨物輸送量は5月より増加しましたが、相変わらずマイナスであり、経済成長が低水準であることに変わりありません。
 7月の対前年同月比の増加率は4.7%とプラスになりました。
 但し、前年7月の値が落ち込んでいるために増加率が高くなっているもので、図-7からは、鉄道貨物輸送量は横這いであることが分かります。
 8月の鉄道貨物輸送量の対前年同月比の増加率は8.1%となり、他の経済指標の推移と併せ中国経済の回復の兆しが窺われます。
 9月は9.0%と少し増加しました。
 2014年8月のデータは、異変を示すもののように思われますが、下記後編の末尾に、中国経済の現状についてコメントを記載しました。


■習近平体制の2年半(2015年4月)



 筆者はエネルギー問題が専門で経済は専門外のため、コメントは極力控え、毎月の統計データを紹介してきました。
  習近平体制が始まった2012年11月から始めたこのページも2年半になり、主題である経済成長の鈍化もかなり進んだため、これまでの経緯を簡単に整理してみました。
 経済が素人のコメントとしてお読み下さい。




このウェブページでは、後編の「中国経済の減速、鉱工業生産と不動産価格」と併せて、中国のGDPの推移に対し、鉱工業生産とその一項目である
1].発電電力量、
2].鉄道貨物輸送量、
3].上海総合株価指数、
4].危惧されるバブル崩壊に関して不動産開発投資額、
5].主要70都市の新築住宅価格、
6].マスコミで度々紹介される製造業PMI
などの毎月の推移を紹介してきました。

 2012年の胡錦濤体制の最後の時期は、経済成長が低下していたことが鉱工業生産のグラフから分かります。




 バブルの後遺症である不動産開発投資による地方政府の債務増大や、国営企業の過剰設備の問題を処理する意図で、不動産市場を規制したことが大きく影響したものと思います。
 不動産開発投資額には、それが明確に表れており、住宅価格も横這いを続けていました。
 習近平の新政権を始めるのにあたり、景気が低迷していては具合が悪いと思うのは当然でしょう。
 不動産市場の規制を緩和しました。
 鉱工業生産は少し持ち直しますが、影響は不動産開発投資額の急上昇と、住宅価格の上昇開始に表れました。
 これでは、李克強首相が唱えた安定成長への移行が達成できません。
 2013年初めに、再び不動産市場の規制が少し導入され、不動産開発投資額と鉱工業生産の増加率が少し低下しました。
 但し、住宅価格は上昇を続けました。鉱工業生産の増加率の変動は、増幅された形で、発電電力量と鉄道貨物輸送量の変動に反映されています。




以後、上記の状況を繰り返し、GDPと鉱工業生産の増加率は、じりじりと低下を続けます。
 2014年に入ると、不動産開発投資額の増加率も急速に低下を始め、住宅価格も低下に転じます。
 GDP増加率の低下は緩やかですが、鉱工業生産の増加率の低下は顕著になります。その状態を正当化するため、新常態(ニューノーマル)という言葉が創出されたように見えます。

 他国に比べて中国は、中央政府の財政が健全で、共産党の一党独裁のため、経済問題に自由に対策が講じられるので、中国のバブル崩壊は起きないと多くのエコノミストが主張してきました。
 しかし、中国政府が講じられる対策は、あまり多くないように思われます。

 消費の拡大により、経済成長を維持することが望ましい対策です。
 しかし、人口1人当たりの中国のGDPは、未だ極めて低く日本の1/5程度であり、加えて貧富の格差が大きいため、13.6億の人口に見合う消費は期待できません。
 住宅価格の上昇が止まると、不動産投資に投じられていた余剰資金は株式投資に向かい、2014年後半から上海総合指数を急上昇させました。

★.経済成長を維持する対策としては、インフラ開発投資くらいしか中国政府には残されていない
ようです。
★.そこで捻出されたのが、一帯一路(新シルクロード構想)とアジアインフラ投資銀行(AIIB)
だと思います。
 但し、
★.インフラ開発投資が思惑通り進んだとしても、直ぐに成果に繋がるわけではありませんから、
今後の中国の経済運営は容易なことではないでしょう。

 中国のGDPには疑念が持たれています。
 例えば、「米中経済・安全保障検討委員会、The Reliability of China’s Economic Data : An Analysis of National Output」のようなレポートが多数出されています。
 2015年第1四半期のGDPの対前年同期比の成長率は7%と発表されましたが、もしかしたら、実際にはもっと低いのかもしれません。



 詳しくは、下記をご覧下さい。(2015年7月追加)
 
中国のGDP値に対する疑念と代替指標を用いたGDP値推測の試み
http://members3.jcom.home.ne.jp/tanakayuzo/chinagdp/newpage23.html

  後編:中国経済の減速、鉱工業生産と不動産価格
http://members3.jcom.home.ne.jp/tanakayuzo/chinaecono/newpage11.html







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