2015年8月31日月曜日

中国が「膨張」するほど遠ざかっていく台湾:台湾の戦略的価値を再認識したアメリカ

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 中国の外交は「信長流」である。
 「力で恫喝する」
というやり方である。
 しかし、これは「もぐらタタキ」になる。
 いくらやっても、何処かでまた反対勢力が勃興する。
 永遠のイタチごっこである。
 外交の巧みさは「秀吉流」だろう。
 武力を嫌い、上手に相手を取り込んでいく。
 日本や南シナ海周辺国に対して中国は信長流でやっている。
 よって、ここには安穏はない。
 常に緊張関係が作りだされている。
 日本にとってはプラスになるが。
 中国は少なくとも台湾に対しては秀吉流でいかないとならない
だろう。
 だが、あまりに信長流を周辺国に魅せつけると、台湾は警戒して中国の秀吉流を受け入れなくなる。
 このへんが難しいところだろう。


JB Press 2015.8.31(月) 阿部 純一
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44646

中国が「膨張」するほど遠ざかっていく台湾
虎視眈々と台湾統一を狙うも逆風は強まるばかり


●台湾海軍が中国の侵攻を想定して実施している軍事演習「漢光30」で、水中爆雷を発射した高速戦闘艇(2014年9月17日撮影)。(c)AFP/SAM YEH 〔AFPBB News〕

 中国の東シナ海、南シナ海における露骨な膨張政策が、
 結果として台湾の地理的重要性を際立たせている。


 中国の戦略的狙いは、東シナ海と南シナ海を排他的な「中国の海」にすることであろう。
 東シナ海上空の「防空識別圏」(ADIZ)の設定、南シナ海・南沙諸島における大規模な埋立工事による人工島建設とそこでの飛行場設置は、東シナ海、南シナ海における制空権・制海権の確立を目指すものである。

 台湾は、まさに東シナ海と南シナ海の結節点に位置し、中国海軍艦船が東シナ海から宮古海峡を通り、また南シナ海からバシー海峡を通って西太平洋に出る状況を監視する戦略的要衝である。
 逆に、中国の観点で見れば、海軍の西太平洋進出にあたり、台湾を中国の海・空軍の戦略拠点とすることができれば戦略的に圧倒的な優位に立ち、東アジアの軍事バランスを中国優位に書き換えることが可能となる。

 そもそも中国が国境を接した外部に深刻な軍事的脅威が存在しない中で、4半世紀にわたり国防費を急増させてきたのは、第一義的には台湾を武力で統一するためである。

 中国は内モンゴル自治区の朱日和戦術訓練基地に、台北の総統府を模した実物大のモックアップを建設し、すでにこれを用いた演習を行っていることを産経新聞が報じている(「台湾・総統府を実物大で複製 中国軍、武力統一向け演習」)。
 習近平政権が台湾の武力統一に向けたゆまない準備を進めていることが分かる。
 中国の台湾侵攻は、決して絵空事ではない。

■米国の軍事介入を排除する「A2/AD」戦略

 台湾侵攻を成功させるためには、台湾海峡上空の制空権はもとより必要条件だが、何よりも重要なのは、
★.外部勢力すなわち米国の軍事介入を排除すること
である。
 そこで中国が構築してきたのが、いわゆる「A2/AD(接近阻止・領域拒否)」戦略と言われるもので、
★.具体的には米空母艦載機が台湾上空に飛来できない遠方(台湾を中心に、半径1000キロメートル程度)で足止めさせようとするもの
である。
 そのために、中国は潜水艦戦力の近代化と拡充に加え、空母をターゲットとして直接攻撃できるとされる対艦弾道ミサイル(ASBM)「東風21D」を開発し、長距離巡航対艦ミサイルなどの開発、配備を進めてきた。

 台湾への直接攻撃では、中国は対岸の福建省を中心に射程300~500キロメートルの短距離弾道ミサイル(SRBM)を1000基以上配備し、台湾が配備するパトリオットPAC3などのミサイル防衛システムに対し、数量で圧倒する「飽和攻撃」が可能となっている。

 国防費の比較では、台湾のそれは中国の約10分の1で、中台の軍事バランスは中国が圧倒しており、戦力の格差は拡大の一途である。
 中国に対し、軍事的に到底太刀打ちできず、米軍の支援も期待できないとなると、
 中国の武力新興の脅しに対して台湾の取りうる選択肢は、
第1に、戦争を回避し、降伏すること、
第2に、敗戦は必至ながらも取りうる軍事的抵抗手段をすべて動員することで中国に多少なりとも損害を与える
――の2つだろう。

 ちなみに、たとえ台湾が国際社会に向けて中国の軍事侵攻の非を訴えたところで、中国の従来からの主張、すなわち台湾は中国の国内問題であり、これに関わろうとするのは内政干渉で受け入れることはできない、という反論にぶつかるだけだろう。
 中国が国連安保理の常任理事国である限り、拒否権を行使して台湾問題を安保理の議題にもさせないことは明らかだ。

 中国が狙っているのが、台湾が戦意を喪失し、戦わずして中国の軍門に下ることであるのは自明である。
 それなら、中台双方が人的犠牲を払うことなく事態を収めることができる。
 しかも、この場合において米国に介入の口実を与えないという極めて大きなメリットがある。

★.中台の緊張に際して、唯一介入の法的根拠を持つのは米国である。
 「台湾関係法」という国内法によって、台湾に防衛用の兵器を供与し、台湾の安全が脅かされた場合、これを座視しないと定めている以上、あくまでも米国自身の選択となるが軍事介入の可能性は高い。
 中国の海洋における膨張政策に合わせ、台湾の軍事戦略的ポジションを評価し、台湾が中国の手にわたる事態の深刻さを考慮すれば、介入しないという選択は限りなくゼロに近いだろう。
 だからこそ、
★.中国は米国に介入の隙を与えない台湾の「無血開城」を狙っている
のである。

■中国は台湾侵攻を思いとどまらざるをえない

 しかし、中国の望むような事態は生まれそうにない。
 中国のA2/ADのネットワークは米国の介入をシャットアウトできるほど強力ではないし、
★.台湾の陸海空の戦力は、中国の圧倒的優勢の前に、本当に無力だとも思えない。

 まず前提として、
★.台湾には本土防衛の意思があり、
★.台湾の防衛能力は航空戦力をはじめ、それなりに機能するだろうし、
★.中国の弾道ミサイル攻撃は、台湾各地に分散されたレーダーサイトや港湾、飛行場など軍関連施設が初期において主なターゲットとなるだろうから、人口密集地域への攻撃による損害はそれほど大きなものにならない。

 仮に市街地にミサイルが1発突入した場合、搭載する爆薬は500キロだから、ビル1棟を破壊する程度だろう。
 これが数百発であったにせよ、被害は大きいが分散されるであろうし、台湾がそれで致命的な壊滅状態に陥ることにはなり得ない。

 かかる状況のもとで米軍が介入を明確にした場合、中国が米軍を対象にA2/AD戦略を実際に発動するかどうかの判断を迫られる。
 もし発動すれば、それによって中台の緊張は中国の言う「国内問題」ではすまなくなり国際化する。
 しかも公然と米軍に攻撃を仕掛けるわけだから、米国・台湾対中国の構図となる。

 米軍は、空母が台湾に近づけなければ、台湾から500キロメートル程度しか離れていない沖縄の嘉手納基地を使うことができる。
 米海兵隊も、オスプレイを使えば迅速に台湾に兵員を送り込むことができる。
 対艦兵器をいくら充実させても、A2/ADには限界がある。
 もちろん中国は米軍を日本が支援する事態も想定しなければならなくなる。

 もし中国が賢明にも以上のシナリオを想定できる想像力があれば、台湾侵攻を思いとどまることになるであろう。
 台湾侵攻が東アジアを巻き込む大規模戦争に発展しかねないからだ。

■台湾の戦略的価値を再認識したオバマ政権

 注目すべきは、米国の台湾に対する姿勢の変化である。
 今年5月下旬から6月上旬にかけて、民進党の蔡英文(さい・えいぶん)主席が同党の総統候補として訪米したが、4年前の2011年9月に、翌年の総統再選をめざす馬英九に対抗する民進党の候補として訪米した時の「冷遇」ぶりとは打って変わって大変な厚遇ぶりであった。

 4年前は、フィナンシャル・タイムズが、蔡英文候補と会った米政府の高官が匿名を条件に
 「彼女(蔡)は、最近の安定した台中関係を維持する意志と能力があるのかどうか、大きな疑問を感じる」
と述べたと報道した(参考「米高官が中国に"リップサービス"」)。オバマ政権が婉曲に蔡英文不支持を打ち出したのである。
 この当時、オバマ政権は米中の良好な関係を維持・発展させる上でも、馬英九総統の進めてきた積極融和的な対中政策を台湾に維持させることが望ましいという判断であった。

 今回の蔡英文訪米時の米中関係は、4年前と様変わりしていた。
 南シナ海で国際法を無視して人工島建設を強引に進める中国に、さすがのオバマ政権も深く懸念する事態になっており、米国にとって台湾がこのまま親中路線でいくよりも、一定の距離を置くべきだと考え、蔡英文支持に切り替えたと見ることができる。
 あえて言えば、オバマ政権はようやく台湾の戦略的価値を再認識したと言える。

 その時々の事情で判断を変える米国に翻弄される台湾の立場に同情を禁じ得ないが、今回は蔡英文候補に有利に働いたわけだ。
 蔡英文候補は、今回の訪米でホワイトハウスや国務省の建物に実際に足を踏み入れ、メデイロス国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長やブリンケン国務省副長官ら最高クラスの政府高官と会談するなど、野党の総統候補として破格の厚遇を受けた。

★.台湾総統選挙における「米国ファクター」は、日本で観察する以上に大きい
 アジアで国交を持つ国が1つもなく、孤立をかこつ台湾にとって、安全保障上唯一頼りにしなければならないのが、「台湾関係法」を持つ米国だからである。
 その米国が、蔡英文候補に「支持」のお墨付きを出したのが、今回の最英文訪米であった。

■中国は警戒、「中台関係は現状維持」と蔡英文候補

 台湾の総統選挙は2016年1月が投票である。
 まだだいぶ先の話だが、選挙情勢は蔡英文候補の優位が固まりつつある。

 2008年に政権を奪還した国民党の馬英九総統は、2期8年の任期を全うすることになるが、近年は10%を切る極端に低い支持率に喘ぎ、レームダック状態であった。
 国民党は、党内の対立事情から馬英九後継の有力候補をまとめきれず、結局、妥協の産物として立法院副院長の洪秀柱女史を党公認候補とした。

 しかし、洪秀柱候補は大陸生まれの外省人であり、強固な統一論者であることもあって民進党の蔡英文候補に対する強力な対抗馬とはみなされず、中国の台湾研究者からも「人気のない二軍的な存在」と論評される存在にすぎない(「中国、台湾の政権交代を確実視 党内報告で国民党候補は『二軍』 日米台の連携を警戒」)。

 蔡英文候補は、中台関係の現状を維持すると言い、決して民進党の綱領にある「台湾独立」を持ち出すことはしない。
 同時に、2014年3月に台湾立法院を学生が占拠し世界的注目を集めた「ヒマワリ学運」が批判したように、馬英九政権の性急で過度な対中傾斜を継続することも、もとより政策の選択肢にない。
 台湾の民意にそって穏健かつ自律的な対中政策を模索することになる。
 しかし、中国は当然ながら警戒の目で蔡英文候補の言動を注目していくことになる。

■米中首脳会談で習近平主席は弱音を吐くことに?

 9月下旬、国連総会の開催に合わせる日程で習近平主席が訪米する。
 2013年夏の米カリフォルニア・サニーランズ会談、昨2014年秋の北京APECでの首脳会談に続く3年連続の米中首脳会談である。
 おそらく前回、前々回とは様変わりの厳しい首脳会談となるだろう。

 オバマ政権とすれば、中国の南シナ海で一方的に進める排他的行動を容認するわけにはいかない。
 海洋覇権国家たる米国の威信がかかる問題だからだ。
 他方、習近平はどうか。
 気がつけば国内経済が凋落の兆しを見せ、貧富の格差は一向に是正されず、反腐敗とそれに絡む権力闘争が猖獗を極めている。
 さらに米国は、日本、オーストラリアとの防衛協力を強化し、フィリピンベトナムとも連携して中国を包囲する体制づくりに励んでいる。

 9月の米中首脳会談で、習近平主席が弱音を吐く姿を今から想像するのは時期尚早かもしれないが、要注目であることは間違いない。



中央社フォーカス台湾 8月31日(月)18時24分配信
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150831-00000007-ftaiwan-cn

国防部、台湾独立宣言などによる情勢緊迫で中共が侵攻の可能性指摘

(台北 31日 中央社)
 国防部は31日、立法院(国会)に2015年版の中共軍事力報告書を提出した。
 これによると、台湾の独立宣言や核兵器の保有、他国軍の進駐などにより情勢が緊迫化した場合には、中国大陸が台湾本島を奪取するために直接攻撃を行う可能性がある。

 また、中国大陸の人民解放軍が、台湾の総統府や周辺の重要施設を模した建物や道路などを建設し、模擬戦を実施していることから、大陸が武力による台湾侵攻を諦めていないのは明らかだとした。

 このほか、
★.中国大陸の2015年の国防予算が国内総生産(GDP)に占める割合は1.34%で、世界1位の米国には及ばない
が、大陸の生活水準とGDPを基準に判断すると、
★.実際には米国とロシアに匹敵する4%に上る
と指摘。
 大陸側の軍事費の増大で両岸(台湾と大陸)の軍事バランスは悪化し、米国との差も縮まりつつあるとしている。



レコードチャイナ 配信日時:2015年9月2日(水) 9時11分
http://www.recordchina.co.jp/a117991.html

台湾国防部「中国が台湾を攻撃する可能性、排除しない」
=中共軍事力報告書で指摘―仏メディア

 2015年8月31日、仏RFI(中国語電子版)は、
 台湾の軍当局が、中国が台湾本島に対する武力侵攻を放棄していないと認識している
と報じた。

 台湾国防部がこのほど立法院に送った2015年度版の中共軍事力報告書によると、
★.中国の今年の国防予算は前年比10%増の約9114億元(約17兆2900億円)で、
 国内総生産(GDP)に占める割合は1.34%
となる。
 総額はアジア最多で、世界でも米国に次いで二番目に多い軍事支出国となる。
★.だが「隠された予算」もあり、実際の金額は発表されているものの2倍から3倍になる
とみられる。

 報告書によると、中国・北京の「朱日和訓練基地」には、台湾総統府や周辺の「博愛特別区」など、重要な政府機関と軍部、インターチェンジと空港などの交通施設が再現され、実戦シミュレーションも行われており、中国が台湾に対する武力侵攻を放棄していないことを示している。

 台湾国防部は、台湾の独立宣言や他国軍の進駐などで情勢が緊迫化した場合、中国が台湾本島を奪取するために直接攻撃を行う可能性もあるとの認識を示している。


 東シナ海は日本の強硬姿勢で袋小路に陥っている。
 南シナ海が中国の思惑通りに経緯すれば、台湾侵攻はないだろう。
 もし、ここで中国が追い込まれると、メンツと目先の効果、国民の不満のはけ口を狙って、台湾侵攻を企てる可能性はある。
 



中国の盛流と陰り


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