2015年7月27日月曜日

『フィナンシャル・タイムズ』を買った日本経済新聞(1):なぜ売りに出されたのか?

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●写真は同紙が日本経済新聞社に買収されたことを報じる日経新聞。都内で撮影(2015年 ロイター/Yuya Shino)


サーチナニュース 7月27日(月)13時49分配信
http://news.searchina.net/id/1582853?page=1

中国人富豪は先見の明がない!
・・・日経のFT買収「影響力は計り知れない」=香港メディア

 香港メディア・鳳凰網は25日、日本経済新聞社が英経済紙「フィナンシャル・タイムズ(FT)」の買収を発表したことについて、鳳凰衛視(フェニックステレビ)の阮次山解説委員が「今回の買収によって日本の影響力が高まる」とするとともに、「中国人の富豪には先見の明がない」と評したことを伝えた。

 記事は、日経によるFT買収は不動産物件の買収のような単純な話ではなく、FTが持つ国際政治、外国、世界の金融に対する影響力の大きさに目を付けたものであると分析。
 また、FTが中国語版を所有していることも大きなポイントとして挙げた。
 そして
 「その影響力は、現状で日本人が持つレベルとは比べ物にならず、
 もはや売却額「13億ドル(約1606億円)」という市場価値だけでは計り知ることができない」
と解説した。

 また、世界における自らの影響力をさらに高めるためにFTという海外メディアの買収を決断した日本に対して、中国国内の富豪は海外の不動産ばかりを買い漁っていると指摘。
 日本以外にも多くの国外メディアがFTの買収を希望するなかで中国からの名乗りが出なかったことについて「なぜなら、国際的なメディアにおいてどのように中国の影響力を強めるか、ということに(中国の富豪は)考えが至らないから」と評した。

 さらに、
 「われわれ中国はお金がないのではなく、『人』がない。
 人間はいるが、大きな視点で見る目がないのだ」とも断じた。
 そして、「今回の買収について、大きな感慨を持った。
 日本は今後世界における影響力がさらに1段階アップすることになるだろう」
と論じた。



ロイター  2015年 07月 27日 09:30 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/07/27/column-ft-nikkei-suntory-idJPKCN0PY15K20150727
Rob Cox

コラム:FT買収する日経とサントリーの共通点

[ニューヨーク 24日 ロイターBREAKINGVIEWS] -
 英経済紙フィナンシャル・タイムズ(FT)のライオネル・バーバー編集長は、一流紙である同紙がケンタッキーバーボン(訂正)と比較されるのは面白くないかもしれない。

 だが、日本経済新聞社が「13億ドル(約1600億円)」で同紙を買収する今回の巨額案件は、サントリーホールディングスが米ビーム社を16億ドルで買収したもう一つの日本企業による案件と、基本的には何ら変わらない。

★.日本以外の国から見れば、こうした巨額買収は理解するのが難しい。
 採算が取れるようには思えないというのがその主な理由だ
 土壇場で日経が独アクセル・シュプリンガーや米ブルームバーグを追い抜くことができた理由もそこにある。

 映画スタジオからゴルフコースやロックフェラーセンターに至るまで、1980年代以降に繰り返されてきた日本企業による破滅的な海外買収も、そうした懐疑的な見方を強める結果に終わった。

 しかし、日本での見方は全く異なるものだ。
 国際的に広く通用する製品もなく、縮小する一方の国内市場において、FTやビーム社などの買収はやや遠い将来を保証することを意味する。
 それ故か、日本企業による海外企業の買収案件は今年、すでに約500億ドルに上る。

 日本の長期的計画と、欧米の資本市場を支配する短期的な考え方との間には違いがあるということだけでは、すべてを説明できない。
 成長後の英メディアに営業利益の35倍を支払い、その帳尻を合わせるというのは困難だ。

 FTの親会社である英ピアソンが今回のFT売却で手放さなかった週刊誌エコノミスト(恐らくブルームバーグのために取っておいたのだろう)によれば、日本の人口は向こう40年で3割以上減少し、約8700万人になると見込まれている。
 さらに悪いことに、出生率や移民人口に変化がなければ、100年間で日本に住む住民の数はわずか4300万人になる可能性すらある。



2015.7.25(土) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44389

58年の時を経てFTブランドを手放すピアソン
日経新聞に1600億円で売却、干渉しなかったオーナー企業の決断
(2015年7月24日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 英フィナンシャル・タイムズ(FT)は1888年の創刊以来、無数の買収案件を取り上げ、自身の業界の再編の波や資産交換、貪欲な大物について詳しく報道してきた。

 だが、頻繁に飛び交う憶測にもかかわらず、FTは1957年以来、所有者が変わらなかった。

 さまざまな地方紙やマーチャントバンクのラザードから利息を得てきた英国の建設会社S・ピアソン・インダストリーズが「健全で保守的な投資」としてFTの経営権を取得した年のことだ。

 当時、「産業、商業、公共問題」という旗印を掲げたサーモン色のロンドンの新聞だったFTは、このニュースにわずか2パラグラフしか割かず、FTの「経営と方針は現在と全く同じように続く」と断じた。

 23日にピアソンが日本経済新聞社に8億4400万ポンドでFTを売却すると発表する頃までには、初期に確立された編集の独立性の方針の厳密な順守を除くと、ピアソンもFTも58年前とはほとんど判別がつかないほど姿を変えていた。

■58年で大きく変貌

 FTがラザードの思惑に影響されていると見られた場合、ラザードへの投資が批判を招くことを理解していた新オーナーのピアソンは1957年、FTの編集長を任命することを除き、編集部門の決定に関与しないことを誓った。
 FTの社説は今でも、「Without fear and without favour(恐れず、おもねず)」という1888年当時の題字の宣言の下に掲載されている。

 ピアソンはかなり前に、ラザードの持ち株のほか、ろう細工からぶどう園、テレビ制作会社まで多種多様な資産を売却し、グローバルな教育市場に経営を集中させてきた。
 同社は今、この分野で「世界の有力学習企業」を称している。

 ピアソンは、FTはこの「学習」の範疇に入ると述べ、傘下の事業ポートフォリオにおけるFTの地位を正当化してきた。
 ピアソンは専門教育コースでFTのコンテンツを利用し、有力者との面会を可能にするFTの力を謳歌してきた。

 だが、近年はFTが投資の優先事項であることはめったになく、投資家はしばしば、ニュースアナリストのケン・ドクター氏が23日に「しっくり収まらない存在」と呼んだものに疑問を投げかけてきた。

 10年以上前にFTが赤字を出していた頃は、そうした疑問がもっと盛んに聞かれたが、FTのデジタル収入と利益率が伸びるにつれて、あまり聞かれなくなっていった。

 つい今週まで、バーンスタインのアナリスト、クラウディオ・アスペシ氏は「FTは好調で、今後の見通しは、むしろ好転している」とし、今は売るべき時期ではないと話していた。

 だが、ニューズ・コーポレーションのルパート・マードック氏やアマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾス氏といった目立つオーナーがウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)やワシントン・ポストといった新聞を買収するたびに、アナリストらは部分総和モデルを引っ張り出してきた。

 彼らは、FTは別のオーナーにとって、より価値の高いトロフィーかもしれないと主張した。

■株主価値を生み出す責務とFTの編集の自由に対する責任

 マードック氏は1980年代後半にピアソン株を買い進めたが、すぐに売却した。
 金融データ企業のブルームバーグやトムソン・ロイターズなど、比較的最近の買い手候補がピアソンの代理人に打診すると、ピアソンの取締役らは、株主のために価値を生み出す責務と、FTの編集の自由に対して歴代の前任者が立てた誓いを守る願望とを何とか両立させようとした。

 その結果、FTの未来は、2013年1月にピアソン最高責任者(CEO)に就任したジョン・ファロン氏にとって、最もデリケートな問題の1つとなった。
 ファロン氏は全面的なリストラを指揮する一方、昔からの教科書市場におけるデジタルの激動や厳しい米国教育予算、ピアソンの評価ビジネスを巡る物議の高まりと戦ってきた。

 ファロン氏の前に16年間にわたってピアソンCEOを務めた元ジャーナリストのマージョリー・スカルディーノ氏はかつて、「自分の目の黒いうちは」FTの売却は許さないと語ったことがある。

 だが、ファロン氏はより慎重な言葉遣いの決まり文句を採用し、FTブランドのことをピアソンにとって「高く評価されている、非常に貴重な一部」と表現しつつ、継続保有することにはコミットしなかった。

 2012年の暮れ、最高財務責任者(CFO)のロビン・フリーストーン氏は、ある投資家向け会議でこう語った。
 「我々はあの所有権を見て、『我々は相手にとって最高のオーナーかと自問し、今のところ、答えはイエスだ』
と言う。
 この状況は変わるかもしれない」

 ピアソンは過去10年間で、欧州の新聞の持ち株、FTSE指数ビジネスや金融データプロバイダーのIDCの持ち株など、かつてFT周辺に置かれていた他の資産を徐々に売却することで、やがて起きることになるFT売却をシンプルにした。

 しかし、ピアソンは、FTが1957年に所有していたザ・バンカーやインベスターズ・クロニクルといった専門ビジネス誌と、FTが1928年に取得した英エコノミスト誌の50%の株式(非支配持ち分)は保有し続けた。
 エコノミストの持ち株については、日経の買収の対象から外された。

 ピアソンが会社の形を変えたように、FTも次第にデジタル化が進むグローバルなニュース市場で変貌を遂げた。
 ピアソンが取得した時に1日の発行部数が10万部足らずの英国紙だったFTは、72万人以上の有料購読者(そのうち3分の2以上がデジタル版購読者)を抱える世界的な商品になった。

■ニュースの世界のクロスオーバーのチャンピオン

 2005年から編集長を務めるライオネル・バーバーと、2006年からCEOを務めるジョン・リディングの指揮下で、「ピンクペーパー」と呼ばれるFTはデジタルファーストのビジネスモデルを築いた。
 FTは原則としてコンテンツに課金し、他社に先駆けて「メーター方式」のオンラインアクセスモデルを開発し、より最近では、デジタル広告が視聴される時間を測る「時間当たりコスト(CPH)」広告測定法を導入した。

 このような対策が昨年10%伸びた購読者総数と高まる収益性と相まって、FTは貴重な読者を抱えるグローバルブランド、かつ紙媒体が支配的な競合他社からは突出したデジタル分野の成長ビジネスになったということを日経に納得させる一助になった。

 「フィナンシャル・タイムズは報道業界でクロスオーバーのチャンピオンとして存在している」
とドクター氏は言う。

 紙媒体の同業者と、資金の潤沢なデジタルの新興ライバルとの競争が激化する中、この理論が今後試されることになる。併せて、新たなオーナーが編集の独立性を守るかどうかという問題も試されることになるだろう。

By Andrew Edgecliffe-Johnson in New York
© The Financial Times Limited 2015. All Rights Reserved. Please do not cut and



ロイター  2015年 07月 27日 07:18 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/07/26/pearson-m-a-economist-idJPKCN0Q00UU20150726

英ピアソン、経済誌エコノミストの50%株売却に向け交渉

[ロンドン/ミラノ 25日 ロイター] -
 英教育・出版事業大手のピアソン(PSON.L)は25日、保有する英経済誌エコノミストの50%株式の売却に向けて、同誌の既存株主と協議に入っていることを明らかにした。
 既存株主の一角であるイタリアのアニェッリ一族は、出資比率の引き上げを希望していることを確認した。

 ピアソンは教育事業に注力する意向を示しており、英フィナンシャル・タイムズ(FT)を日本経済新聞社に売却すると発表したばかり。

 ピアソンは「エコノミスト株50%の売却について、エコノミストグループの取締役会や信託管理人と協議していることを確認」した。
 ただ「このプロセスが実際の売却に至るか、確実ではない」としている。

 具体的な交渉相手は特定していない。
 アニェッリ一族の投資会社で、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCHA.MI)の主要株主でもある伊持ち株会社エクソール(EXOR.MI)はウェブサイトで、現在4.72%の出資比率の引き上げに向け交渉していると明らかにした。



2015.7.28(火) Financial Times
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/44401

英エコノミスト、利益と名声のプレミアム
ピアソンが50%の持ち株売却へ、評価額は約4億ポンドか
(2015年7月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)


●JBpressの翻訳でもおなじみの英エコノミスト誌

 世界で最も影響力のある雑誌の1つを出版している英エコノミストグループほど特異な構造のメディア企業はほとんどない。
 1928年にロスチャイルド家、キャドバリー家、シュローダー家、そして当時のファイナンシャル・ニューズの出版社の連合によって財政難から救済されて以来、その構造は一握りのメディア企業しか匹敵できない財務と編集の独立性を同社に与えてきた。

 エコノミストはこれから、過去80年以上なかった大規模な所有権の変更に直面する。

 ファナンシャル・ニューズの後継企業であるフィナンシャル・タイムズ(FT)を1957年に買収したピアソンがエコノミストの50%の持ち株の売却交渉を進めているからだ。

 株式の買い手にはロスチャイルド家が含まれると見られているが、イタリアのアニェリ家も含まれる見込みだ。
 アニェリ家は自動車大手フィアット・クライスラーの支配株主で、それ以外の点では非常に英国的なエコノミストの所有の伝統への新規参入者だ。

 株式売却交渉は、ピアソンがFTグループを8億4400万ポンドで日本経済新聞社に売却することに同意した件に続く動きだ。
 だが、このプロセスがどんな結果になったとしても、どこか1社の投資家がエコノミストグループの支配権を獲得することはほぼあり得ないだろう。

■1社の支配を許さない構造、恩恵は高まる名声と配当金

 3人の消息筋によると、ピアソン自体が過去15年間でエコノミストの完全な支配権を得ようとしたという。
 もし成功していたら、エコノミストとFTを一緒にすることができ、両社合計で230万人を超える有料購読者が、より強力なグローバルメディア企業を築いていただろう。

 しかし、ピアソンの試みは拒否された。
 FTSE100の構成銘柄であるピアソンに近いある人物によると、その結果、ピアソンはエコノミストの持ち株でほとんど何もすることができなかったという。

 株式所有の恩恵は、戦略ではなく、高まる名声と配当金という形で入ってきた。
 エコノミストがオンライン上で掲載している社史は、ピアソンに触れることさえしていない。

 ピアソンはグループの支配権を得ようとしたかどうかについてコメントをすることを拒み、エコノミストグループの「同僚と仲間の取締役たちとは強固な仕事上の関係を享受してきた」と述べた。

 エコノミストグループの議決権株式の売却はすべて、エコノミスト誌の編集の独立性を守る責任を負う4人の信託管理人の承認を得なければならない。

 グループの会長とエコノミスト誌編集長の任命も承認する信託管理人は、どこか1社が支配権を握るのを許すことを嫌がる。

 そのような規則を変更するためには株主の75%の支持が必要になるが、ロスチャイルド家、キャドバリー家、シュローダー家がエコノミスト誌へのコミットメントを失っていないため、まとまった株式が売りに出されることはなかった。

 この構造はエコノミストグループの経営陣に「ものすごい量の自由と独立性」を与えたと、エコノミスト元編集長のビル・エモット氏は言う。

 年次総会を除けば、外部の株主はめったに姿を見せない。
 それでも、ピアソンが持ち株を売却する可能性は「永遠に警戒し続ける」ことを意味したとエモット氏は付け加える。

 エコノミストグループの取締役会でレディー・リン・フォレスター・ド・ロスチャイルドが代表しているロスチャイルド家は近年、若干持ち株を増やして21%前後としている。

■存在感高めるイタリアのアニェリ家

 アニェリ家は、一族の投資会社エクソールの最高経営責任者(CEO)、ジョン・エルカン氏が2009年にエコノミストグループの取締役に任命されて以来、4.7%の株式を取得した。
 次第に高まるアニェリ家の存在感は、エコノミストが次第にグローバル化し、最大の読者層が米国になっている状況を反映している。

 エルカン氏はまた、別の名門出版社に対するアニェリ家の間接的な持ち分も増やしている。
 イタリアのコリエーレ・デラ・セラを所有しているRCSメディアグループだ。
 エコノミストグループと同様、RCSの株式保有構造も細分化されている。

 長い年月の間には、エコノミストグループはいくつかの戦略、編集上の問題にぶつかった。
 1つの失敗は、海運専門誌ジャーナル・オブ・コマースを1995年に買収した件で、6年後に売却している。

 だが、エコノミスト誌自体は商業的に概ね繁栄してきた。
 1928年に所有者が変わる前から、編集長が解任されたことはない。

 営業利益は過去10年間で2倍以上に増えて6000万ポンドに達した。
 エコノミストが米国市場に攻め込んだことと、デジタル購読の販売に比較的成功したことを反映した成果だ。

■営業利益の倍数で見るとFTより「安い」理由

 アーンスト・アンド・ヤングの会計士たちは毎年、従業員による株式購入や株主間の交換を容易にするために、エコノミストグループの株式を評価している。
 同社の計算は、グループの株式の価値が2003年以降3倍に膨らみ、7億3000万ポンドに達したことを示している。

 株式売却交渉に通じた人々によると、ピアソンの50%の持ち株は約4億ポンドと評価される可能性が高いという。
 これほど大規模な株式売却の希少性を反映したプレミアムだ。

 それでも、営業利益の倍数としては、このエコノミストの持ち株の価値は日経がFT買収に払ったもののざっと半分にとどまる。
 経営の支配権がないためだ。

By Henry Mance, Media Correspondent
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ロイター 2015年 07月 31日 17:02 JST
http://jp.reuters.com/article/2015/07/31/column-jp-corporate-buyout-idJPKCN0Q50QS20150731

コラム:日本企業、海外買収は「魔法の杖」か
Edward Hadas

[ロンドン 29日 ロイターBREAKINGVIEWS] -
 日本経済新聞社は、なぜ英フィナンシャル・タイムズ(FT)を買収したのか。
 筆者の同僚のロブ・コックス氏が指摘するように、
★.それは日本の人口動態によって最もうまく説明できる
だろう。

 最少限の移民受け入れと少子化のせいで、日本の人口は縮小している。
 故に、成長を望む多くの企業は海外に目を向けざるを得ない。
 日本企業の経営者たちにしてみれば、さもなくば避けられない成長低下よりも、グローバルな機会について語る方が心地良いに違いない。

 だが、数字は厳しい状況を突きつけており、それは日本に限ったことではない。
 すべての先進国市場において、低い出生率と経済的成熟という組み合わせは、多くの企業の従来の戦略を脅かしている。

 顧客の数がほとんど増えず、国全体の資産も伸び悩むなか、売上高が名目GDP(国内総生産)よりもはるかに速いペースで増加することを期待するアナリストや経営者は失望することになるだろう。

 少子化の進む先進国では、実質GDPの年間成長率は2%以下にとどまる見通しだ。
 成長のほとんどは、全く新しいモノとサービスを提供するグーグルやフェイスブックのような企業によってもたらされることになる。

 その他の企業の見通しは、せいぜい月並み程度だ。
 衰退は「純日本企業」にとって自然な定めと言える。
 西欧諸国も日本と同じような出生率だが、移民の数が多い。
 したがって企業は通常、衰退よりも停滞に直面する。

 さえない人口動態の環境下では、海外進出は魅力的な選択だ。
 日経より先に、日本の大企業の多くが他の先進国企業と同様、海外に大々的に進出している。
 そのような投資は、優れた外国企業が活気のない国内企業からシェアを奪うことができればうまくいく。
 日本の自動車メーカーは、米ファストフードや欧州の精密機械メーカーと同じく、そのような戦略で成長してきた。

 しかしながら、進出先の選択はますます難しくなってきている。
 市場のグローバル化が進むにつれ、先進国で競争に勝つことは一段と困難さを増している。

 日経はFTの競合紙をつくろうとは思わなかっただろうし、サントリーもジムビームと競ってバーボン市場に参入しようとは考えなかっただろう。
 両社は比較的高い代償を支払っても、名高い外国企業を買収することに決めた。

 このような買い物はうまくいくかもしれないが、成熟した市場で、
 成熟した企業を満額で買うという戦略は根本的に問題がある。
 十中八九、買収した企業の伸び悩みに直面することになるだろう。

 グローバル企業にとって、かつては貧困国が成長を見いだしやすい場所であった。
 しかし新興国として知られる国々では、発展の極めて初期段階で、かなり洗練された国内企業が育ちつつあるようだ。
 米ゼネラル・モーターズ(GM)は新興国市場への進出拡大を計画しているが、そのパートナーは中国企業だ。

 強化された競争力と根強い経済ナショナリズムを併せ持つ新興国市場への参入は、先進国企業の多くにとっては険しい道だ。
 結局、巨額の利益が望める「エメラルドの都」などめったに存在しない。

 国際的な鉱業企業の幹部なら、成功した投資にはたいてい、大きなコミットメントや、進出先の政府や企業と利益分配する意思などがしばしば必要とされると皮肉めいて語るだろう。

 富裕国の企業が、貧困国の企業を安く買収するのは難しいと考えるのは当然だ。
 富める者は自分たちより貧しい者を助けるべきであり、彼らを利用すべきではないからだ。
 より寛大な世界では、成熟した企業は発展のために利益を犠牲にするのもいとわないだろう。
 しかし実際には、株主や経営者の本音は往々にして、努力は見込みだけの報酬によって正当化されるものではないということだろう。

 要するに、国内ではほとんど成長が見込めないばかりか、前途有望な海外市場でも、利益を得ることは大変困難であるという世界的な傾向から逃れられる先進国企業は比較的少ないということだ。
 とはいえ、人口動態や経済動向からの影響は避けられない。

 株主や経営者の多くは、このような困難な現実を無視するか、もしくは否定するだろう。
 だがそれは結局のところ、無駄を意味する。
 高額な買収や成長を求める野心的な投資が、時間と金の無駄に終わることはよくある。
 日経や他の日本企業にとっての最善策は、より精彩に欠ける運命を受け入れることなのかもしれない。

*筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。



中国の盛流と陰り



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